2006年11月1日水曜日

チンパンジー日記 2 (平成18年11月)

夏期開園も終わりました。
一息つく間もなく冬季開園に向け,越冬準備などをしなくてはいけません。
今年は例年になく園路や獣舎の改修がたくさんあり,さらにテレビ取材がびっちりです。
開園期間中よりも忙しくなる予感がします。
動物と飼育係だけの時間はもう二度と持つことはできないのでしょうか…
ひとつ,とても残念な改修を決断しました。
ぺんぎん館の手すりです。
高さを高くし,一部にはアクリルを貼って手を入れることが出来ないようにします。
干渉しない生き物とのつき合い方,ルールやマナーも提案できたらと思い,全国でも異例な,
遮る壁のない目の前でペンギンが見られる展示方法だったのですが,限界です。

さて,チンパンジーの森ですが,キーボがいないことに気づいたでしょうか?
実は,新居に引っ越してから世代交代が起きたのです。
引っ越して間もなくミコ(♀)に発情がきました。
子のミラクルが6才になり,そろそろ親離れの時期です。
ミラクルに手が掛からなくなってきて次の子を宿す準備が出来たのです。
発情当初はキーボがそばから離れずに交尾の権利を主張していたのですが,
息子のシンバが割って入ってきました。
シンバはフルト(♀)との間の子で11才。血気盛んな若者です。
ミコはシンバを選びました。
強気になったシンバはミコに操られるようにキーボに挑み掛かるようになりました。
肉体的にキーボに勝ち目はありません。
生傷が絶えなくなり,キーボは緊張の糸が切れたように精神的に弱気になってしまいました。
雌や息子を制御できなくなる屈辱は図り知れません。それでもミコの発情が終わると
シンバも落ち着きキーボと和解したように見えました。小康状態です。
ただ,ミコはキーボのすることがいちいち気に入らないようで,
時々癇癪を起こしキーボを追い回していました。

9月の末,キーボが唇に裂傷を負っていたため,迷ったのですが麻酔をかけ手術をしました。
その日一晩群れと隔離し,次の日の朝,群に戻しました。
事件はその時に起きてしまいました。
群れと一緒にした瞬間にミコがキーボに襲いかかりました。
群れ全体が騒然とする中,シンバが闘争に加わりました。床が血で染まります。
やっとの思いでキーボを隔離しました。
体中に傷を負い,膝関節が裂け,骨が露出しています。緊急手術を行いました。
幸い,後遺症もなく怪我は快方に向かっています。
もぬけの殻のようになった目にも生気がよみがえってきました。

厳しい社会,ルールが彼らにはあります。
野生下ならばキーボの役目は終わったのかもしれません。
キーボが旭山にきて31年,38才です。
どのような形で群への復帰が可能なのか模索する日々が続いています。

2006年10月28日土曜日

アライグマは悪い生き物? (平成18年10月)

今年の夏期開園ももうすぐ終わりですね。
今年もまた数字は記録ずくめでした。
9月の入園者数が昨年の魔の8月と一緒とは…。
中でも,施設としてではなく,個人で来園される車椅子の方が顕著に増加したこと,
今年度から介助犬を連れての入園を一部解禁したのですが,
たくさんの方が介助犬と共に来園されたことが僕には印象に残りました。
「坂がきついから」は,もう言い訳にはならないのかも知れませんね。

さて,話は変わってアライグマの話です。
ここ数年,「外来動物展」という特別展を資料展示館で行っています。
今年は旭川市でも初めてアライグマが捕獲されたこともあり,
アライグマを大きく取り上げながら外来動物の問題を広く知ってもらおうと,
さまざまな活動を行っています。
ただ,そこで「外来動物は悪い動物,イコールその種自体が悪い動物」
といったイメージを持ってしまいがちで,そうなると問題の本質が見えなくなります。

アライグマ自体はとても素晴らしい魅力のある生き物です。
鳥でも虫でも果実でも野菜でも何でも食べます。
手先が器用で,木にも登れる,沢のような浅い水中でも平気で入り,
水中の生き物も器用な手を使いつかまえて食べてしまいます。
このような多才な動物は日本にはいません。
もともと雑食動物は,生態系の中では草食動物,肉食動物の隙間を縫うようなポジションで,
ちょっと控えめに生活をしている種が多いのです。
本来の生息地,北アメリカでは大型のヤマネコやオオカミ,コヨーテといった
食物連鎖の頂点に立つ動物たちがいます。
アライグマは強いあごを持っていますが,北アメリカではたいしたことはありません。
アライグマは北アメリカの広大な自然環境のルールの中では
慎ましく他の生き物たちと共存し調和しているのです。

ところが,日本の自然環境のルールの中でアライグマが生活を始めたらどうなるでしょう?
キツネやタヌキでは彼らを追い出すことはできません。
北アメリカでは「つつましく」でしたが,日本では食物連鎖の頂点の肉食動物に化け,
さらに果実や野菜も食べ放題です。
誰も彼らに対抗する術を身につけてはいません。

日本の自然のルールの中ではアライグマはあまりにも多くの能力を持ちすぎ,異質です。
サッカーの試合にラグビーの選手をひとり入れたようなものです。
ラグビーの選手はひたすらラグビーをしているだけです。
でも,試合を成立させるためにはラグビーの選手を排除するしかありません。

日本ではアライグマをヒトの生活圏から一歩たりとも出してはいけなかったのです。
「かわいいから」と持ち込んだのは私たちなのだから私たちが解決しなければいけません。

2006年9月28日木曜日

「魅せる」理想と現実 (平成18年9月)

8月もチンパンジーの森のオープン,お盆期間の夜の動物園と
今シーズン最大の山場を超えました。
まさかここまでと思うほどの記録的な入園者を迎え入れました。
ただし,今年も想定以上の来園者数で迎え入れる体制が
後手後手に回った感は否めませんでした。
言い訳がましいですが,昨年の3割増のペースはさすがにいかがなものでしょう。
「もぐもぐタイム」などで来園者との接点になる僕たち飼育展示係は,
さまざまな理由からお客さんに頭ごなしに怒鳴られたり,叱られたりといったことが多くなりました。お客さんに「伝えよう」でここまできたのですが,その一番大切な気持ちが揺らぎそうになります。
例えば,ツアーバスで来園される方は時間に縛りがあります。
でもその時間内に観ることができると思って来園します。
ところがそうはいきません。
そこで,さまざまな不満が噴出します。
一般来園の車が多くなると,ツアーバスが乗降場所に着くまでにも時間を消費してしまいます。
今年もまた,さまざまな課題が浮き彫りになりました。
来園者数が増えればいいでかたづけられる問題ではありませんね。

さて,新居に引っ越したチンパンジーたちです。
引っ越してからすぐにあたかも昔からそこで生活していたかのように馴染んでしまいました。
たくさんの不安があったのですが,正直,拍子抜けするくらいでした。
そして,前は檻越しに覗くと,扉を叩いたり大きな声を張り上げたり,
水をかけてきたりと大騒ぎをしたのですが,それもすっかりしなくなりました。
こっちの存在は分かっているのですが,餌を食べたり,寝たり,遊んだりと
僕らを意識することなく生活をするようになりました。
チンパンジーたちが気に入ってくれたようなので,まずは合格点ですかね。

一方,お客さんはどう見ているでしょう?
ちんぱんじー館は,ペンギン,アザラシのように比較的短い滞在時間で
感動してもらえる施設ではありません。
個体同士の関わり合いや個性などをじっくりと観察して欲しいと願い,建築しました。
お客さんの意識の持ち方や期待の仕方で評価が大きく分かれているでしょう。
自分自身は,今まで彼らを真正面から間近に観ることができなかったので,
それができたことだけでもとても満足しているのですが…。