2008年9月30日火曜日

夏の日のできごと(平成20年9月)

さて,夜の動物園も終わりすっかり秋の気配です。
気づけば一年の三分の二が終わろうとしています。

8月1日にチンパンジーのミコが出産しました。
父キーボとの壮絶な覇権闘争に勝ち,
自分の群れを持つこととなったシンバ,
メスのチロとチロの仔タケル,
ミコの4頭で暮らし始めて2年目ついに父親になりました。

ミコは覇権争いのきっかけとなった魔性のメスです。
これで旭山チンパンジー家,初の3代目になります。
キーボが旭山に来てから33年目の出来事になります。
旭山には4頭の大人のメスが居ますが,
これで4頭とも小児を抱えていることになりました。
とてもにぎやかで,チンパンジーの群れらしくなりました。
みな個性のかたまりみたいなのばっかりなので,ぜひ会いに来て下さい。

オランウータンのモモとモリト姉弟。
モモはすっかりお姉ちゃんになりました。
弟の面倒見もいいのですが,
母親リアンとは別行動を取ることも多くなり,
おませな時期になってきました。
そして身体能力もめきめきと高まっています。
もぐもぐタイムの時間は,モモが空中散歩をすることが多くなってきました。
リアンは空中散歩の早さ競争では
モモの身軽さについていけないことを自覚しているのです。
それでも,たまにもぐもぐタイムのおやつが欲しくなるらしく,
そんなときはモリトを置き去りにして空中散歩に出かけます。
当然,モモも行くのですが,
モリトが置き去りになっているのが気になり,
途中で引き返しモリトを迎えに行きます。
リアンはモモの心理を読んでいるのです。

リアンは何事もなかったかのようにおやつを食べています。
モモはモリトを抱っこしてリアンのそばに行き,
「連れてきたよ」と言わんばかりに
リアンの顔をのぞき込むのですが,
リアンはこれまた当然のように「よくできたね」なんて
おやつを分けたりはしません。
ちょっとずるい気もしますが,
それもモモが一人前になるための教育なのでしょう。
後2~3年でモモは独り立ちの時期を迎えます。

夏の主役,サルの仲間の季節はあっという間に過ぎ去ろうとしています。
またアザラシやオオカミの季節,冬がやってきます。
雪のオオカミ楽しみです…ちょっと気が早いですかね!

2008年8月30日土曜日

イヌとの違いpart1(平成20年8月)

オオカミの森もオープンして数週間が経ち
オオカミたちも落ち着いてきました。
夕方には小山の岩の上で遠吠えも,やり始めました。
うちの施設はオープンすると,
たくさんの人がさまざまな期待を持って見に来て下さるのですが,
サッと通過しながら(そうせざるを得ない時も…)
その時に見られたか見られないかだけで
評価をされている方が多いのが残念です。

 「どこにもいないじゃない!もっと数を増やせばいいのに」
 A:オオカミ同士のコミュニケーションをより豊かにし
      オオカミらしい群れ(パックと言います)にするために
   見通しのきかない空間を目指しました。
      オオカミは出会ったら挨拶をし,
      見えないと鳴き声で会話をします。

  「寝てばっかりでやる気ないじゃん!」
 A:暑い日,日差しの強い日は
      無駄に体力を消耗しないために寝て過ごします。
      気持ちよさそうに木陰で昼寝です。
      四六時中動き回る動物はいません。

 「イヌみたい!」
 A:本当にイヌを知っているのですか?
    それより当たり前ですがイヌがオオカミに似ているのです。

 「エゾシカがかわいそう!一生怯えて生きるんだよ」
 A:動物園で生まれ育ったエゾシカ・オオカミですから,
   直接相手を食べる食べられる相手とは見ていません。
     本能的なところでの緊張感は生まれますが,
     むしろそれは飼育下という
     絶対的な安全を保証された環境の中では
     プラス方向の刺激だと考えています。
     檻越しで相手が隔てられていることは,すぐに学習します。
     何より食べるもの食べられるものがお互いを排除することなく
     共生できる素晴らしさを彼らは持っています。

せめて市民の方には表面的な見方をしないで見て欲しいと思います。
彼らは素晴らしい動物です。
もしイヌを飼っていたらイヌのしぐさが「こんなこと伝えたかったんだ」と
気づくことがあるかも知れません。

もちろん,しっかりとオオカミを感じてくれる方もたくさんいます。
夏休みはやっぱり混んでいることが多いかも知れません。
市民だからこそできる夕方3時半以降,
夕涼みがてら動物たちに会いに来てみて下さい。
オオカミの森では手書きの看板,
あべ弘士さん壁画もしっかりと読んでみて下さい。
8月は夜の動物園,
さらに身近な自然を考えたり体感したりする行事もあります。
自然と共に生きる未来を選択する旭川市でありたいと願っています。 
オオカミの前歯(ゲンちゃん画伯)

2008年7月30日水曜日

「オオカミの森」がオープン!(平成20年7月)

いよいよオオカミの森オープンまでカウントダウンが始まった今、
この手紙を書いています。
オオカミの引っ越し、エゾシカの引っ越し、
オオカミの放飼場への馴致…とりあえず順調です。

仮住まいしていた旧もうじゅう舎では
存在感が今ひとつパッとしなかったのですが
オオカミの森でのオオカミの印象は
ハッとするくらい凛々しくて存在感抜群でした。
ここで彼らの生活が始まり永住の地となるのです。
もしかしたらほんの百年ほど前まで、
まさにこの旭山の大地にエゾオオカミが悠然と暮らし、
遠吠えをしていたのかもしれないと思うと、
胸が締め付けられる気がしました。
オオカミらしく走り、子育てをし、寝て、遠吠えをして…
でもここは旭山動物園の「オオカミの森」
もう二度と旭川の大地にオオカミがよみがえることはありません。

旭山では十数年前までオオカミを飼育していました。
老朽化で飼育を断念して今に至りました。
オオカミはイヌではありません。
トラやホッキョクグマと同じく,
頑として人の介在を許さない一線を持つ気高い生き物でした。
荒々しさと繊細さが同居する飼育するものを魅了する生き物でした。
十数年以上たった今でもオオカミの遠吠えは耳に残っています。
当時はお世辞にも広いとはいえない檻の中で、
来園者からは「狭くてかわいそう、野良犬みたい」などと言われたまま
飼育の歴史を閉じていました。

北海道の雄大な自然,世界自然遺産となった知床,
北海道以外でも雄大な自然と呼ばれるところはたくさんあります。
でも,私たちは北海道でも本州でも
生態系の要であるオオカミを絶滅させた歴史を持ちます。
雄大な「不」自然なのです。

シカの食害による森林の崩壊が現実のものになりつつあります。
自然を構成する一員であるエゾシカが
農作物のみならず自然さえも破壊してしまう存在になりつつあります。
シカを害獣にしたのは誰なのでしょう?「害獣」なんて本来存在しません。
私たちの生活が害獣を作り出しています。
自分たちの生活の豊かさを追い求めた結果、
さまざまなことが小手先のごまかしでは繕えなくなりつつあります。
私たちの豊かさはあまりにもわがままだったのかもしれません。
豊かさに感謝を込めて奪ったものに還元する仕組みを作らなければいけません。
エゾシカの数は私たちヒトがオオカミに替わり
何らかのコントロールをしなければいけません。

すべての命は連鎖しています。
その連鎖の輪を断ち切ってしまった罪を今こそしっかりと再認識をし,
自然の成り立ち,命の成り立ちを理解しなければ,
エゾシカの尊厳を認めた上での将来を見据えた対策はとれないでしょう。

そんなメッセージを込め,オオカミの森が完成しました。
オオカミの遠吠え(ゲンちゃん画伯)