1998年10月31日土曜日

もうじゅう館part2(平成10年秋)

今シーズンもたくさんの方に来ていただいて、
ありがとうございました。
来園者数は開園30年目の昨シーズンより
4万人あまり多い34万人でした。
特に、猛獣館がオープンした10月の入園者の多さは
ちょっとした事件でした。

特に珍しい動物を入れたわけでもなく、
今まで飼育していた動物の「見せ方」を変えただけなのに、
こんなに喜んでもらえるなんて、
これからの動物園を考える大きな材料になりました。

 さて猛獣館ですがたくさんの方から苦情?がありました。
ほとんどが次の3点でしたのでいいわけをさせて下さい。

「トラの地面が土だけでドロドロでかわいそう、ライオンは芝生なのに…。」
トラの地面には落ち葉を敷き詰めたいと思っていましたが、
落ち葉が間に合いませんでした。
トラは森林、ライオンは草原はっきりと分けたいと思っています。
来年はトラの放飼場は落ち葉がびっしりで、
ササやススキがはえていますよ。
 
「ヒグマだけ地面がコンクリートでかわいそう。」
やっぱりきたか…と思います。
ヒグマの場合、糞の量が多く柔らかいため
どうしても床を水洗いする必要がありました。
床を洗った水は園内の浄化槽で処理をするため
土が流れ込むと問題になります。
「一部でも土にとも!」考えたのですが、
ヒグマが掘り起こすのは明らかなのであきらめました。
しかし、皆さんの言うことももっともなので
来年のオープンまでに対策をすることにします。
どんなことをするかは来年見て確かめて下さい。
 
最期が「頭の上にいるヒョウ、
もし誰かが指でも入れたら危ないじゃない。」
ヒョウは木の上で休んだり獲物を待ち伏せしたりします。
僕たちの方がヒョウに見下ろされることで、
ヒョウのイメージが伝わると考えました。
このような見せ方はたぶん日本では当園だけでしょう。
確かに肩車でもすれば手が届くでしょう。
でもあれよりも高くしても、ガラスなどで遮っても、
見つけたときの「ドキッ!」とする感覚はなくなってしまいます。
それよりもヒョウが傘などで突っつかれて、
頭上に来なくなってしまうことの方が心配です。
以上いいわけでした。

環境問題が他人事ではなく現実味を帯びてきた今、
動物園は理屈ではなくて「動物のいる空間の気持ちよさ」
を伝えることが使命だと僕は思います。
どうして自然を守らなければいけないのかは、
見たり聞いたりして考えるのではなく、
まずは感じることから始まるのではないでしょうか。

動物たちが幸せに生活していることが
「気持ちよさ」を伝えるための第一条件でしょう。
トラやヒグマの地面にたくさんの人が感心を持ってくれたこと、
これは何かとても大きな第一歩のような気がします。

トラ
画:ゲンちゃん


1998年9月30日水曜日

もうじゅう館part1(平成10年晩夏)

新しいもうじゅう館、ご覧になりましたか?
あの建物が実質3ヶ月半で出来たとは今でも信じられません。
扉の開閉の仕方から全てが普通じゃない建物を
ああだこうだと打ち合わせをしながら、
オープン10日前になってもコンクリートを打っていたんですから。
 
完成が近づくにつれ、
僕の頭の中は「万が一逃げないだろうか?」それ一色になってきました。
なにせ誰もが認める猛獣ライオン、トラ、ヒグマを
天井のない檻で飼おうというのですから。
トラが逃げる夢を見ること十数回、
なぜトラかと言うと、トラプールの壁の高さが3メートル、
さらに「忍び返し」付きの柵が3メートルあるのですが、
もし逃げるならここしかない!
それが自分の中で「確信」に近いものになっていったのです。
「壁の高さを4メートルにしておけば」・・・
どうです?見てみたくなったでしょう。

動物の移動も「異常」でした。
9月21日にネコ科11頭、22日にヒグマ2頭を移動したのですが
1頭ずつ檻に入れてなどと言った時間的余裕がなかったので
全て麻酔をして寝ている間にトラックに積んで移動しました。
ライオンなど治療のために麻酔をかけることはあっても、
「寝室」から外に出すことはありません。
出すとすれば死んだ時だけです。
やはり「万が一目がさめたら」です。

何事も予定どうりにはいかないもので、
トラ、ライオンは一度に2頭ずつと思っていたのですが、
重たすぎて1頭ずつ運ぶことになりました。
麻酔がかかって「さあ始めるぞ!」と言ってからライオンが頭を上げること1回、
ヒグマが動き出すこと1回、ヒグマの呼吸が停止すること1回、
そのときは必死だったのですが、今考えると冷や汗タラタラ、
ちびっちゃうってとこですね。

まだまだあるけどオープンの日、
たくさんの人が見に来てくれて喜んでくれたので、
ほんとに「よかった」と嬉しかったです。
そして何より動物たちがイキイキと楽しそうで、
僕たちでさえ今まで見たことのない表情やしぐさを発見できました。

今、さる山の設計をしています。来年も楽しみです。

ライオン
画:ゲンちゃん