1999年10月1日金曜日

ぺんぎん館構想(平成11年秋)

記録的な暑さも嘘のように終わり、いつもの秋です。
暑さでまいったのはキレンジャクでした。
夏は涼しいシベリア地方で繁殖する渡り鳥です。
暑い日中はくちばしを開けてハァハァと呼吸し、
食欲不振、腸炎と併発し死亡する個体が相次ぎました。
結局,展示をあきらめ、比較的涼しい小屋に移動し暑さを乗り越えました。
不思議なことに同じようにシベリアに渡るヒレンジャクは平気でした。

夏は暑い、冬は寒い。
1年の温度差が60℃もあるような過酷な環境の動物園はうちだけでしょう。
人も動物も数字だけ聞くとよく住んでるなって気になりますね。
動物たちの出身地は世界中さまざまですが、つぼさえ押さえて飼育すれば、
快適に1年を過ごさせることが出来ます。
 
さてぺんぎん館です。
来年の建築に向けて設計の真っ最中です。
ペンギンと聞くと南極・氷・寒いと連想するでしょう?
ところが!旭川の冬を暖房なしで生活できるのはごく一部の種なのです!
ポピュラーなフンボルトペンギンなどは暖房室がないと死んでしまいます。
また暖かくすればいいかというとそうでもなくて、
ペンギンは感染症に弱いので清潔な環境も必要なのです。
旭山動物園でも昔ペンギンを飼育していましたが、
専用の越冬施設がなく死亡個体が相次ぎ,飼育を断念していました。
 
せっかくペンギンを飼育するなら雪の中で絵になるペンギンを飼いたい、
氷の張った水中を泳ぐペンギンを飼いたい。
これがスタートでした。
これこそ,旭山動物園でしか出来ないペンギンの見せ方です。
そこで現実的に入手可能なキングペンギンを飼育することに決定しました。
ところが!調べていくとキングペンギンはほとんど水に入らない!!
というとんでもない事実が浮かび上がってきました。
そこでよく泳ぐフンボルトペンギンも入れることに決定しました。
室内を10℃前後に保てば夏は冷房、冬は暖房として使え、
どちらのペンギンにも快適な環境を提供できることに気づきました。
まさに一石二鳥です。

実は水中の見せ方にアッと驚く仕組みを計画しています。
南極の魚も展示したいな、アザラシは一緒に飼えないかな、
いろんなことも考えています。
飼育していない動物の施設を作る難しさを感じつつ、
だんだんとぺんぎん館が頭の中で出来上がってきています。

キングペンギン
画:ゲンちゃん



1999年7月1日木曜日

命(平成11年夏)

去年はもうじゅう館、今年はサル山の建設に追われています。
7月23日に完成・引き渡し、7月25日のオープン予定です。

例によってサルを新獣舎にならす時間がないので、
19日に寝室だけを引き渡してもらって引っ越しをする予定です。
サル山の目玉は「ヒトとサルの比較」です。
仕掛けは完成してからのお楽しみです。

さて,毎年この時期になると憂鬱なことが必ず起きます。
ウサギやアヒル、ニワトリなどが捨てられているからです。
電話での引き取り依頼もたくさん来ます。
ほとんどが「お祭り」で衝動的に飼い始めてしまった動物たちです。
当然ですが動物園では家畜やペットの引き取りは一切していません。

それが、ただであろうが数百円であろうが、
飼い始めた命には責任をとらなければいけないと思います。
家畜やペットは、僕たち人間が飼うために、
長い年月を掛けて「改良」して作り出した命です。
ヒトが飼って初めて生かされる命です。
飼い主のいないペットは哀れです。
捨てる人は自分が手を下さないから、
動物園に捨てればもしかしたら幸せになれるかもしれない、
いや自分が飼うよりもきっと幸せに違いないなんて
自分をごまかしているのでしょうか?

捨てられている動物を生涯飼育する場所もないし、
どんな飼われ方をしていたのかも分からない、
危険な病気を持っているかもしれない動物を、
園内で飼育することは出来ません。
通常の手術をする麻酔をかけて安楽死をしています。
僕だって「可愛そう」だと感じます。
でも、動物園はその命に責任が持てません。
自分が飼い主になれないのだから選択肢はありません。 
里親探しをしたら?
なるほど、でも残念ながらそんなことをしたら
動物園は動物の捨て場になってしまうでしょう。
毎年繰り返される、捨てられた動物を見ていると
みなさんのことが信用出来ないのです。

どんな理由であれ、もらい手も見つからず飼えなくなった命には、
たとえいくら掛かろうと自分が安楽死を決断し
責任をとるべきだと思います。
飼い始めた命を真剣に考えれば、
少なくとも「捨てる」という選択肢はないはずです。

ウサギ
画:ゲンちゃん

1999年4月30日金曜日

開園準備(平成11年春)

今年の冬はみなさんも雪には悩まされたのではないでしょうか?
これでもか、と追い打ちをかけるように雪が降りました。

4月に入っても園内は80センチの積雪がありました。
例年4月29日の開園前の4月は堆肥出しや砂利入れ、
動物たちのための遊具の取り付け、
サルや鳥の止まり木の取り替え、冬がこいの取り外し、
動物の移動などたくさんの作業に追われます。

ところが今年は、4月の中旬まで雪割りしかできませんでした。
開園始まって以来初めて園内の排雪もしました。
動物園が所属する商工部の人たちにも、
雪割りの応援をしていただきました。
その甲斐あって、開園はいつものとおり
雪のない状態でオープンできそうです。

「雪のない動物園でオープンすること。」
これはだれが決めたことでもないのですが、
破ってはいけない「掟」のように職員みんなに重くのしかかっていました。
「ほっておいてもいつかなくなるのに…」
頭のどこかにこんな思いがあっても来る日も来る日も雪割りで、
建設的でない作業に気が滅入ったりもしました。

動物たちはそんなこと知ったこっちゃなくて、
トラは毎日降る雪の中で真っ白になって走り回っていました。
だけど4月中旬、雪が解け初めて表面が堅くなり滑りやすくなると、
トラの雌・ノンは外に出たがらなくなりました。
初めてスケートをする人みたいに、
ちょっとでも足が滑ると動けなくなるので、
見ている僕らは大笑いしていたのですが、
本人には大変なことだったようで、
あまりにも体中に力が入りすぎて腰を痛めてしまいました。
オスのいっちゃんは全然平気で走り回っていたので、
ノンは運動神経が鈍いのか、恐がりなのか、
コンクリートで平らなところしか知らない都会っ子なのかそんなとこでしょう。

この手紙を書きながら園内を見ると芝生が緑になっていて、
ほんの少し前の真っ白な風景が嘘のようです。
やっぱりほっておいても、
消えてなくなってたんじゃないかななんて思ってしまいます。

ニホンザル
画:ゲンちゃん