2008年7月30日水曜日

「オオカミの森」がオープン!(平成20年7月)

いよいよオオカミの森オープンまでカウントダウンが始まった今、
この手紙を書いています。
オオカミの引っ越し、エゾシカの引っ越し、
オオカミの放飼場への馴致…とりあえず順調です。

仮住まいしていた旧もうじゅう舎では
存在感が今ひとつパッとしなかったのですが
オオカミの森でのオオカミの印象は
ハッとするくらい凛々しくて存在感抜群でした。
ここで彼らの生活が始まり永住の地となるのです。
もしかしたらほんの百年ほど前まで、
まさにこの旭山の大地にエゾオオカミが悠然と暮らし、
遠吠えをしていたのかもしれないと思うと、
胸が締め付けられる気がしました。
オオカミらしく走り、子育てをし、寝て、遠吠えをして…
でもここは旭山動物園の「オオカミの森」
もう二度と旭川の大地にオオカミがよみがえることはありません。

旭山では十数年前までオオカミを飼育していました。
老朽化で飼育を断念して今に至りました。
オオカミはイヌではありません。
トラやホッキョクグマと同じく,
頑として人の介在を許さない一線を持つ気高い生き物でした。
荒々しさと繊細さが同居する飼育するものを魅了する生き物でした。
十数年以上たった今でもオオカミの遠吠えは耳に残っています。
当時はお世辞にも広いとはいえない檻の中で、
来園者からは「狭くてかわいそう、野良犬みたい」などと言われたまま
飼育の歴史を閉じていました。

北海道の雄大な自然,世界自然遺産となった知床,
北海道以外でも雄大な自然と呼ばれるところはたくさんあります。
でも,私たちは北海道でも本州でも
生態系の要であるオオカミを絶滅させた歴史を持ちます。
雄大な「不」自然なのです。

シカの食害による森林の崩壊が現実のものになりつつあります。
自然を構成する一員であるエゾシカが
農作物のみならず自然さえも破壊してしまう存在になりつつあります。
シカを害獣にしたのは誰なのでしょう?「害獣」なんて本来存在しません。
私たちの生活が害獣を作り出しています。
自分たちの生活の豊かさを追い求めた結果、
さまざまなことが小手先のごまかしでは繕えなくなりつつあります。
私たちの豊かさはあまりにもわがままだったのかもしれません。
豊かさに感謝を込めて奪ったものに還元する仕組みを作らなければいけません。
エゾシカの数は私たちヒトがオオカミに替わり
何らかのコントロールをしなければいけません。

すべての命は連鎖しています。
その連鎖の輪を断ち切ってしまった罪を今こそしっかりと再認識をし,
自然の成り立ち,命の成り立ちを理解しなければ,
エゾシカの尊厳を認めた上での将来を見据えた対策はとれないでしょう。

そんなメッセージを込め,オオカミの森が完成しました。
オオカミの遠吠え(ゲンちゃん画伯)