2008年12月31日水曜日

命の恵み (平成20年12月)

冬期開園も無事に始まりました。
どうなるか分からないのですがホッキョクグマのルルの出産準備も整いました。
オオカミも新しい雌がカナダからやってきます。
10年後20年後を考えて

世代交代ができるような群れを形成していきたいと考えてのことです。
ケンとメリーが若い内ならば,新参者を迎え入れてくれるでしょう。
オオカミの繁殖にも僕たちは期待しています。
発情期は年に一回2月頃です。
守るべき命が誕生することで,よりオオカミらしく生活をするようになるでしょう。
順調にいくと来春には…楽しみですね。

今年の冬の足音は順調ですね。
(広報を書いたのが11月だったので…。12月はなかなか雪が降りませんが…)
冬の使者,ハクチョウなどの水鳥類も渡ってきました。
高病原性鳥インフルエンザの問題が発端となり,
餌付けの自粛への取り組みが各地で始まっています。
野生動物との本来の関係を取り戻すことに

関心が向いてくれればいいのですが。
旭山動物園でもスタッフが中心メンバーとなり

永山新川での餌付け問題に取り組んでおり,
着実に成果を上げつつあります。

ただし感染症を怖がるだけで

日本中が一斉に餌付けをやめてしまうことには不安もあります。
彼らが越冬する場所も人と関わらずに確保できる餌場も

当然ながら不足しているはずです。
科学的な検証をしながら,彼らから奪ったものを補ってやるという発想も
一方でしっかりと検討していかなければいけないでしょう。
高病原性鳥インフルエンザは不自然で濃密な接点を持たなければ,
必要以上に恐れる必要はないのです。

このことは国民共通の理解にしておきたいものです。

弱っていたり傷ついたハクチョウを見つけると

「助けてあげたい」と誰もが思います。
ごく自然な感情です。
でも動物たちからするとどうでしょう?
厳しい冬を迎える前のキタキツネや大型の猛禽類などにとっては
ハクチョウはシベリアの大地からの大切な恵みです。
過酷な渡りの過程で年老いたものや体力のないもの傷ついたものは

脱落し死亡していきます。
ハクチョウにとっても自分たちだけが増えすぎないための大切な営みです。
死はすべて恵みになります。
日本の大地の恵みで命をつないだハクチョウたちは

春その恵みをシベリアの大地に運びます。
すべての営み,命は循環しています。
今守らなければならないのは,個ではなく仕組みそのものです。

それが「保全」です。

僕たちの住む日本や先進国,急速な発展をしている国は
食べ物やエネルギーや木材を大量に輸入しています。
そして国内で消費し尽くして,恵みをくれた大地に何も返していません。
地球環境が病んでいる大きな原因の一つです。
ハクチョウを見習い循環する仕組みを作り出さなければいけないですね。
渡るコハクチョウ(ゲンチャン画伯)

2008年11月30日日曜日

市民感謝開放の日に (平成20年11月)

今日は市民無料開放日,夏期開園が終わりました。
夏期来園者数は210万人と昨年度の一割減でした。
減ったと言っても実質6ヶ月での数ですから,
それはそれで,普段人混みに免疫のないわれわれ市民にとっては,
行くのをためらう数字なのかも知れません。

今日は小春日和でみな思い思いのペースで園内を回り過ごされています。
とてもいい感じです。
いろんなものを背負ってしまった旭山動物園,
これで良しとはならないし,難しいですね…。
どうであれ,来園される方が気持ちよく来園できて,
たとえ混んでいても「来てよかったね」と感じてもらえるような
努力をし続けなければいけないと実感した夏でした。

「来園者のために」を軸に努力をして,
その結果,経済的な利益がついてくる,
動物園に関わる方々にはこの思いだけは共有して欲しいと,
僕たちスタッフは思っています。

さて,明日から恒例の越冬準備です。
今年は期間が短いので大変です。
エゾシカの森の建築も始まることだし。
そういえば久々に誕生したジェンツーペンギンのヒナもあっという間に生長し
水中を泳ぎ回っています。
まだまだ,上手とは言えないのですが…
キングペンギンのヒナは,まだまだ茶色のキウイで,
親鳥のそばから離れず屋外放飼場に出てきません。

このヒナはペンギン散歩に出てきてしまうのだろうか?
ヒナは途中で散歩をやめてしまうから,抱えて戻らなきゃいけないので,
今からどうなるのかな,
なんてことを考えながら日々の成長を見守っています。

今年,ぺんぎん館では鳥マラリアの発生が確認されました。
現在死因調査中のものも含め数羽が死亡しました。
スタッフ一丸となって初期症状での発見,治療を行った結果,
収束させることができました。
カに刺されることで伝染するのですが
(もちろんヒトに感染することはありません)
来年以降の予防対策を考えていかなければいけません。

過去の死亡例を調べてみると
過去にも発生していた可能性があったのですが,
集団発生は今年が初めてでした。
僕たちには感じることができない環境の変化が
起こり始めているのかも知れません。

降雪量の変化や雪解けの早さなどで,
今まで余り問題になっていなかった
道南や道央でもエゾシカが爆発的に増加しそうな気配です。
季節のリズムが変わり始めているのかも知れません。
エゾシカをとおして北海道の自然を考える
エゾシカの森のオープンも急がなければいけないな!
そんなことを思いながら(皆さんには申し訳ありませんが)
つかの間の静かな動物園を満喫させてもらおうっと。

2008年10月30日木曜日

「エゾシカの森」序章!(平成20年10月)

9月も中旬に入り,朝晩は秋らしくなってきました。
エゾシカの角も生長し袋角が破け立派な角になり始めました。
エゾシカはこれからが恋の季節です。
もう少しすると,エゾシカは灰色がかった茶色の冬毛に衣替えです。
葉が落ちた林のモノトーンにとけ込むためです。
昔はオオカミから身を隠すためだったのでしょうが…
エゾユキウサギやホッキョクギツネも真っ白に衣替えです。
そしてオオカミも毛足の長い冬毛に換わります。
小高い雪山に登り,白い息を吐きながら遠吠えをする姿を想像するだけで
早く冬が来ないかと待ち遠しくなります。
ほんの100年少し前まで旭山でも
野生のエゾオオカミが遠吠えをしていたことでしょう。

さて,6月にオープンしたオオカミの森,
実はエゾシカの森が隣にできて始めて完成です。
そのエゾシカの森の設計も終わり年度内の完成を目指し着工します。
みなさん実はエゾシカも絶滅したと考えられていた時期があるのをご存じですか?
エゾオオカミを奨励金を出して駆除し,オオカミによる家畜の被害がほぼなくなり
奨励金制度をやめた1888年の翌年,エゾシカが禁猟になりました。
オオカミの駆除と平行して,
エゾシカの毛皮や角を商品として大量に捕殺していました。
その数は年間10万頭を下らなかったと言われています。
このままではエゾシカがいなくなると心配し禁猟措置をとったのです。
オオカミにとっては主食のエゾシカはいなくなる,家畜を襲うと殺される,
飢えと恐怖の中で消えていったのです。

ちなみにエゾオオカミに人が襲われた事例は一件もありませんでした。
その後一度エゾシカ猟が解禁になるのですが,
1920(大正9)年再び禁猟となります。
しかしこの時すでにエゾシカは絶滅したと考えられていました。
しばらく時は流れて1942(昭和17)年日高と置戸の山奥で
エゾシカはひっそりと息をつないでいました。

その後着実に数を増やし,1985(昭和60)年頃にエゾシカの数が
北海道の森が養える数を超え農業,林業の被害が顕在化してきました。
そして今農業被害だけではなく,本来のすみかである森すらも破壊してしまう
モンスターになってしまいました。

豊かな大地北海道は,私たちだけのものなのでしょうか?
 
「エゾシカの森」では畑を作り
市民と一緒に種植から収穫までやりたいと考えています。
きっとエゾシカに食べられたり荒らされたりするでしょう。
でも植えたら収穫したくなるはずです。
その過程の中で,僕たちも自然の中でエゾシカと共に生活しているんだ,
僕たちの生活圏と自然に境界線なんてないんだ,
ということに気づいて欲しいと思います。

絶滅に追いやったオオカミ,増えすぎたエゾシカとヒトの生活,
これがおおきなコンセプトになります。
水を飲むエゾシカ(ゲンちゃん画伯)

2008年9月30日火曜日

夏の日のできごと(平成20年9月)

さて,夜の動物園も終わりすっかり秋の気配です。
気づけば一年の三分の二が終わろうとしています。

8月1日にチンパンジーのミコが出産しました。
父キーボとの壮絶な覇権闘争に勝ち,
自分の群れを持つこととなったシンバ,
メスのチロとチロの仔タケル,
ミコの4頭で暮らし始めて2年目ついに父親になりました。

ミコは覇権争いのきっかけとなった魔性のメスです。
これで旭山チンパンジー家,初の3代目になります。
キーボが旭山に来てから33年目の出来事になります。
旭山には4頭の大人のメスが居ますが,
これで4頭とも小児を抱えていることになりました。
とてもにぎやかで,チンパンジーの群れらしくなりました。
みな個性のかたまりみたいなのばっかりなので,ぜひ会いに来て下さい。

オランウータンのモモとモリト姉弟。
モモはすっかりお姉ちゃんになりました。
弟の面倒見もいいのですが,
母親リアンとは別行動を取ることも多くなり,
おませな時期になってきました。
そして身体能力もめきめきと高まっています。
もぐもぐタイムの時間は,モモが空中散歩をすることが多くなってきました。
リアンは空中散歩の早さ競争では
モモの身軽さについていけないことを自覚しているのです。
それでも,たまにもぐもぐタイムのおやつが欲しくなるらしく,
そんなときはモリトを置き去りにして空中散歩に出かけます。
当然,モモも行くのですが,
モリトが置き去りになっているのが気になり,
途中で引き返しモリトを迎えに行きます。
リアンはモモの心理を読んでいるのです。

リアンは何事もなかったかのようにおやつを食べています。
モモはモリトを抱っこしてリアンのそばに行き,
「連れてきたよ」と言わんばかりに
リアンの顔をのぞき込むのですが,
リアンはこれまた当然のように「よくできたね」なんて
おやつを分けたりはしません。
ちょっとずるい気もしますが,
それもモモが一人前になるための教育なのでしょう。
後2~3年でモモは独り立ちの時期を迎えます。

夏の主役,サルの仲間の季節はあっという間に過ぎ去ろうとしています。
またアザラシやオオカミの季節,冬がやってきます。
雪のオオカミ楽しみです…ちょっと気が早いですかね!

2008年8月30日土曜日

イヌとの違いpart1(平成20年8月)

オオカミの森もオープンして数週間が経ち
オオカミたちも落ち着いてきました。
夕方には小山の岩の上で遠吠えも,やり始めました。
うちの施設はオープンすると,
たくさんの人がさまざまな期待を持って見に来て下さるのですが,
サッと通過しながら(そうせざるを得ない時も…)
その時に見られたか見られないかだけで
評価をされている方が多いのが残念です。

 「どこにもいないじゃない!もっと数を増やせばいいのに」
 A:オオカミ同士のコミュニケーションをより豊かにし
      オオカミらしい群れ(パックと言います)にするために
   見通しのきかない空間を目指しました。
      オオカミは出会ったら挨拶をし,
      見えないと鳴き声で会話をします。

  「寝てばっかりでやる気ないじゃん!」
 A:暑い日,日差しの強い日は
      無駄に体力を消耗しないために寝て過ごします。
      気持ちよさそうに木陰で昼寝です。
      四六時中動き回る動物はいません。

 「イヌみたい!」
 A:本当にイヌを知っているのですか?
    それより当たり前ですがイヌがオオカミに似ているのです。

 「エゾシカがかわいそう!一生怯えて生きるんだよ」
 A:動物園で生まれ育ったエゾシカ・オオカミですから,
   直接相手を食べる食べられる相手とは見ていません。
     本能的なところでの緊張感は生まれますが,
     むしろそれは飼育下という
     絶対的な安全を保証された環境の中では
     プラス方向の刺激だと考えています。
     檻越しで相手が隔てられていることは,すぐに学習します。
     何より食べるもの食べられるものがお互いを排除することなく
     共生できる素晴らしさを彼らは持っています。

せめて市民の方には表面的な見方をしないで見て欲しいと思います。
彼らは素晴らしい動物です。
もしイヌを飼っていたらイヌのしぐさが「こんなこと伝えたかったんだ」と
気づくことがあるかも知れません。

もちろん,しっかりとオオカミを感じてくれる方もたくさんいます。
夏休みはやっぱり混んでいることが多いかも知れません。
市民だからこそできる夕方3時半以降,
夕涼みがてら動物たちに会いに来てみて下さい。
オオカミの森では手書きの看板,
あべ弘士さん壁画もしっかりと読んでみて下さい。
8月は夜の動物園,
さらに身近な自然を考えたり体感したりする行事もあります。
自然と共に生きる未来を選択する旭川市でありたいと願っています。 
オオカミの前歯(ゲンちゃん画伯)

2008年7月30日水曜日

「オオカミの森」がオープン!(平成20年7月)

いよいよオオカミの森オープンまでカウントダウンが始まった今、
この手紙を書いています。
オオカミの引っ越し、エゾシカの引っ越し、
オオカミの放飼場への馴致…とりあえず順調です。

仮住まいしていた旧もうじゅう舎では
存在感が今ひとつパッとしなかったのですが
オオカミの森でのオオカミの印象は
ハッとするくらい凛々しくて存在感抜群でした。
ここで彼らの生活が始まり永住の地となるのです。
もしかしたらほんの百年ほど前まで、
まさにこの旭山の大地にエゾオオカミが悠然と暮らし、
遠吠えをしていたのかもしれないと思うと、
胸が締め付けられる気がしました。
オオカミらしく走り、子育てをし、寝て、遠吠えをして…
でもここは旭山動物園の「オオカミの森」
もう二度と旭川の大地にオオカミがよみがえることはありません。

旭山では十数年前までオオカミを飼育していました。
老朽化で飼育を断念して今に至りました。
オオカミはイヌではありません。
トラやホッキョクグマと同じく,
頑として人の介在を許さない一線を持つ気高い生き物でした。
荒々しさと繊細さが同居する飼育するものを魅了する生き物でした。
十数年以上たった今でもオオカミの遠吠えは耳に残っています。
当時はお世辞にも広いとはいえない檻の中で、
来園者からは「狭くてかわいそう、野良犬みたい」などと言われたまま
飼育の歴史を閉じていました。

北海道の雄大な自然,世界自然遺産となった知床,
北海道以外でも雄大な自然と呼ばれるところはたくさんあります。
でも,私たちは北海道でも本州でも
生態系の要であるオオカミを絶滅させた歴史を持ちます。
雄大な「不」自然なのです。

シカの食害による森林の崩壊が現実のものになりつつあります。
自然を構成する一員であるエゾシカが
農作物のみならず自然さえも破壊してしまう存在になりつつあります。
シカを害獣にしたのは誰なのでしょう?「害獣」なんて本来存在しません。
私たちの生活が害獣を作り出しています。
自分たちの生活の豊かさを追い求めた結果、
さまざまなことが小手先のごまかしでは繕えなくなりつつあります。
私たちの豊かさはあまりにもわがままだったのかもしれません。
豊かさに感謝を込めて奪ったものに還元する仕組みを作らなければいけません。
エゾシカの数は私たちヒトがオオカミに替わり
何らかのコントロールをしなければいけません。

すべての命は連鎖しています。
その連鎖の輪を断ち切ってしまった罪を今こそしっかりと再認識をし,
自然の成り立ち,命の成り立ちを理解しなければ,
エゾシカの尊厳を認めた上での将来を見据えた対策はとれないでしょう。

そんなメッセージを込め,オオカミの森が完成しました。
オオカミの遠吠え(ゲンちゃん画伯)

2008年6月27日金曜日

エゾオオカミ絶滅~北海道の原罪~ (平成20年6月27日 番外編)

~共生から敵対へ~

明治維新がおき、ちょんまげを捨て、
欧米の価値観で近代化の波が押しよせてきました。
維新の翌年1869年、蝦夷地(えぞち)が北海道に改名され、
本格的な開拓が始まりました。

森は切り開かれ、道路、鉄道、炭鉱、工場、そして牧場が広がりました。
食料、毛皮を求め、エゾオオカミも大量に捕獲しました。

エゾシカを主食としていたエゾオオカミは牧場の家畜をおそうようになりました…。
アイヌ民族とは「共生」関係にあったオオカミは、
本州から渡ってきた人間とは利害の対立する「敵対」関係になっていきました。

~絶滅へ~

政府は1876年から懸賞金をつけてオオカミの駆除を奨励しました。
今のお金にすると、1頭につき10万円くらいの賞金です。

1888年まで続いたこの政策で、記録にあるだけで1500頭あまり、
記録にない数も含めると4000頭くらいが殺されたと考えられています。
銃や毒薬(ストリキニーネ)を使い駆除されていきました。

1879年の大雪でエゾシカの大量餓死も重なり、オオカミは生きるすべを失い、
急速に数を減らし、1896年毛皮の取引を最後に記録がなくなり、
1900年ごろ絶滅しました。

~害獣~

私たちの生活が「豊か」で「幸せ」になると、
オオカミが害獣とよばれ、エゾシカが害獣とよばれるようになりました。

私たちはどんな未来を描くのでしょう?未来に何を残せるのでしょう?
もう遠吠えは聞こえない…。
エゾシカ・オオカミ・ヒト(ゲンちゃん画伯)

2008年5月30日金曜日

ドラマ第3弾 (平成20年5月 番外編)

いつも、放送前に書いていたのに今回は…
放送翌日になってしまいました。
といっても書いているのは放送前なのでまだ見ていませんが。
今年は来春公開の映画のロケもあり、
まさに今現在も別のドラマのロケ中です。

早いもので、あれから3年もたったのですね。
旭山動物園は惰性ではなく今もしっかりと地面を蹴り
未来に向かい進んでいるつもりです。
みなさんから見てどうなのでしょうか?

今回も旭山動物園での動物の誕生や死、
それをしっかりと受け止める飼育係の姿をとおして、
見ている方に「生きる力」が伝わればいいなと思います。
もちろんドラマですからすべてが事実ではありません。
ただ旭山の信念をベースに物語は展開しているはずです。

これからは「多様性」「共存」
つまりたくさんの種類の生き物が命が共に生きること、が問われる時代です。
そのためにはまず我々人類がしっかりと大地に根を張り
「生きること」が前提です。
自分たちが「不毛の生き方」をしていて、
他の命を思いやれるはずはないからです。

今回のドラマでもたくさんの動物園でロケが行われました。
とてもたくさんの人や動物の協力でドラマは完成しています。
このドラマ、本当は旭山というよりは全国の動物園からのメッセージなのです。

動物園は人の価値観で作られてます。
その点では博物館、科学館や美術館と同じです。
「集める」「分類する」これは人類の特徴的な行動です。
ただ動物園が他の施設と決定的に違うのは、
動物園の動物は「生きていること」
「人の価値観で作られた施設で
人の価値観で生きていない動物たちを見てもらっている」こと
だと思います。

人類は「大切だ」と思うものを「守る」生き物でもあります。
どう「大切だ」と思ってもらうかが問われるのだと思います。
動物たちのありのままの生き方、姿に
尊さを感じ大切にしたい気持ちを育まなければと思います。
特に特定の価値観をまだ持たない子供たちには…

さて、ドラマも中盤です。
見終わってみなさんがどのようなことを感じたでしょうか?
僕は6月下旬オープンのオオカミの森完成を目指します。
そしてエゾシカの森の設計も同時進行しています。

明日も「頑張って生きてみますか!」
ハッピーの夢(ゲンちゃん画伯)

2008年5月26日月曜日

オオカミらしくを目指して! (平成20年5月)

例年になく早い雪解けを迎えた4月,旭山動物園は遅い冬ごもりを迎えました。
今年は4月8日から25日までのわずか18日間です。

前半は映画,ドラマのロケの対応,中盤からは獣舎の改修,
修理等々あっという間の冬ごもりです。
飼育係的には,雪割り作業が皆無に近く,共同作業も超順調で,
夏期開園に向けての取り組みもエンジン全開です。
どんな仕掛けや情報発信があるのか楽しみです。
でも雪が消えるのがこんなに早くていいのか?
こんなに早く芝生が緑になっていいのか?
一抹の不安がよぎりますね。

オオカミの森の建築も急ピッチで進んでいます。
もちろんオオカミたちも元気です。
オープンの時にお披露目する3頭は順調に旭山の風土に慣れつつあります。
3頭の来歴は,体毛が黒く不気味な雰囲気を持つカナダから来た1才の雄,
雌の兄弟と秋田市大森山動物園から来た

4才になるベージュ系の体毛の雌1頭です。
最大の課題は兄弟の黒い雄とベージュの雌がペアーになるかどうかです。

しっかりとした絆を持つペアーになれば

兄弟の黒い雌はベージュの雌の下の位となり
発情は抑制されて兄姉婚は起きません。
これがただ単に多頭飼育ではなく
オオカミとしての社会性のある群れ(パック)としての飼育になります。
「オオカミらしい生活」の出発点です。

ベージュの雌はある動物園に4年前に輸入されてきたのですが虚弱で
他の個体と一緒に生活することが困難でした。
他の個体からの攻撃を受け左前肢の指の欠損,機能障害が残りました。
大森山動物園に行ってからも特定の個体とは同居できたのですが,
群れに入ることはできませんでした。

「なぜそんな個体をあえて選んだの?」

それはオオカミの繁殖能力の強さに原因があります。
ある動物園でオオカミが繁殖すると

その子供は別の動物園にもらわれていきます。
毎年数頭の子が生まれますから,

その繁殖ペアーの血統が動物園界に広がります。
子供たちがもらわれた先で

血縁のない個体と新たなペアーを組み繁殖しても,
やはり孫同士は血縁があり,

近親交配を避けることができなくなってきます。

旭山で,黒い雄とベージュの雌がペアーとなってくれたら,
日本には血縁のない新たな血統が生まれます。
飼育下で繁殖を維持し,種を維持するのは実は大変なことです。
旭山で飼育するのは一般的にシンリンオオカミと言われている種です。
国内で血縁のない3系統のペアーがいます。
うまくいけば3代目までは種を維持できます。
一般的に動物の輸入は困難になりつつあります。
どのような種でも

国内で「うちだけ」でしか飼育していない種の未来の展望は明るくありません。

旭山の施設もオオカミもこれからです。
オオカミの表情(ゲンちゃん画伯)

2008年4月29日火曜日

鳥インフルエンザpartⅡ (平成20年4月番外編)

十和田湖のオオハクチョウ3羽の死体と衰弱個体(後日死亡)の内3羽から
高病原性鳥インフルエンザが見つかりました。
オオハクチョウは渡り鳥です。
冬になると越冬のために日本に渡ってきて、
春になるとユーラシア大陸の高緯度地方に戻り繁殖をします。
十和田湖のオオハクチョウは北海道を経由して繁殖地に渡っていきます。
東北地方や北海道ではもうしばらく警戒が必要です。

高病原性鳥インフルエンザについては

発生すると養鶏農家などの経済的な被害も莫大ですが、
このインフルエンザウイルスが
ヒトからヒトに感染するウイルスに変異する可能性が高いことが指摘されており
このことがもっとも恐れられています。
(ゲンちゃん日記:平成16年5月鳥インフルエンザ参照)

オオハクチョウから高病原性鳥インフルエンザが検出されたことを受けて、

環境省は「弱った野鳥にむやみに近づいたり素手で触ったりしないように」
と呼びかけています。
僕はもっと根本的なことで、ヒトとの接点を作る「エサやりはしないように」を
啓発するべきだと思います。
エサやりは野生動物の生活に干渉することです。

実際ハクチョウ類のパンやりなどの餌付けは、

本来ならば羽を休めるだけの場所で越冬する個体が出たり、
そのことでハクチョウ類の糞で湖が汚染されてしまったりと
様々な影響が指摘されはじめています。

人にとって「可愛らしい」と感じられるから、
「自然を、ハクチョウを愛している」といってエサを与える、
とてもわがままな行為につながっていると思います。

可愛くなくなったらどうなるのでしょう?

餌付けに依存してしまったハクチョウは
どうやって生きていけばいいのでしょう?
話が少々脱線しましたが、
高病原性鳥インフルエンザはニワトリ、アヒルなどの家禽との
濃密な接触をすることで人への感染が起きるのですから、
野鳥の場合、本来の関係であれば
家禽とのような濃密な接点は生じ得ないわけで、
要は「不自然な関わり方はしないように」
ということではないでしょうか。

愛すればこそ干渉をしない、野生動物との共生のキーワードです。

餌付けハクチョウ(ゲンちゃん画伯)

2008年4月26日土曜日

平成20年度年頭に (平成20年4月)

超特急で平成19年度が終わり,新たな年度が始まりました。

僕は密かにゴマフアザラシが出産するのではないかと期待しているのですが,
どうなったでしょうか?
ホッキョクグマはめでたく発情,交尾をしたでしょうか?
(3月19日に原稿を書いているので…)

恒例の春の開園準備作業も,ずいぶんと期間が短くなりました。
今年は18日間しかありません。
旭山動物園は定休日がないので,
春と秋の休園期間が唯一の充電期間であり,
新たな取り組みの準備期間なのです。

それにしても今年は短い!
映画やドラマのロケなどの対応も盛りだくさんだし,
外の社会と隔離された自分たちのためだけの動物園に浸りながら,
さまざまなアイデアを考え,具体化し,動物たちの反応を確かめ,
夏期開園が始まってからの来園者の反応を想像しながら
額に汗しながらノコギリを引く。
そんな余裕がありません。
ちょっとピンチです。
自分たちが楽しく仕事をしなければ,
来園者も楽しく過ごせるはずもありません。

今年度は旭山動物園の新たな時代の幕開けです。
遊園地がすべてなくなり,「動物だけ」で勝負することになるからです。
遊具も大きな楽しみのひとつだった子供たちに,
動物を通してより大きな喜びを伝えることがどのようにすればできるのか?
ただでさえ大人の入園者の比率が高い旭山で(収入面ではいいのだけれど)
これ以上子供たちが来なくなっては大変です。
子供たちが動物ではなく,
大人のおしりしか見れないような現状の中で
工夫をしなければいけないと思っています。

今まであきらめていたことも,
本当にできないのか検証もしてみたいと思います。
例えば動物園での「写生会」。ここ数年は見なくなりました。
というか,できる状況ではなくなりました。
というか,来園者が許してくれなくなりました。
クラスまとまってのお弁当。これも場所がなくなり,
みんながバラバラで獣舎の陰や歩道の隅で食べたりしていました。
これに関しては,遊園地の跡地に巨大な芝生広場ができて,
夏期開園から利用できます。
できることなら,ある程度は場所取りも認めてあげられないか検討します。

走り続ける中で,たくさんの落とし物をしているのでしょう。
どこかで振り返り探さなければいけません。
今がその時期なのだと思います。
それにしても一週間7日は短すぎます。
せめて9日あれば走りながら落とし物も捜せるのですが…

愚痴りながらも,今年もしっかりと結果を残しますよ,期待して下さい。 

2008年3月31日月曜日

温暖化の中での生き残り戦術(平成20年3月)

久しぶりに寒い冬らしい冬だなと思っていたら,
2月の中旬に入りとたんに暖かくなってしまいました。
あざらし館スタッフが懸命に具体化した念願の流氷広場も

あっけなく溶けてしまいました。
なんか地軸の傾きがおかしくなったのかと思うくらい強い日差しです。
今年も結局雪解けは早そうな予感です。
オホーツク沿岸のゴマフアザラシたちは

無事に出産,子育てができるのでしょうか?
流氷は彼らのゆりかごです。
ほんの数週間早くなくなることで,

アザラシは命をつなぐことができなくなります。

今年は「温暖化」という文字を洞爺湖サミットもあることだし
イヤと言うくらい目にする年になるでしょう。
でも今よりももっと暖かい時代は過去にあったわけで

温暖化自体が問題なのではありません。
問題は温暖化のペースが異常に早いこと,

温暖化がおそらく人為的だということです。
動物は自らに与えられた環境の中で命を育みます。

自らが環境を変え臨機応変に生きるという生き方をしません。
数世代のうちに激変して環境そのものが変わってしまう中では

生きることができません。
変え続けることでここまで来た人類でさえ

農業などごく近い将来大変なことになるでしょう。

ただ,動物たちにもしたたかさはあります。
ホッキョクグマはすでに温暖化の影響を強く受けています。
近い将来,もしかしたら僕が生きているうちに絶滅するかも知れません。
そんな中でハイブリッド個体いわゆる雑種が確認されています。
ホッキョクグマとヒグマの雑種です。

数年前ヨーロッパの動物園に
茶ブチのホッキョクグマがいるらしいとの情報は知っていたのですが…
まさか野生下でしかもごく希ではなくいるらしいのです。
温暖化は,極地よりも少し暖かい環境に棲むヒグマにとっては
生息地が極地方面に拡大することを意味します。

本来ならば生活の仕方が全く異なり

棲み分けていた彼らに接点ができたのです。
ホッキョクグマとヒグマは

わずか20万年程前に種として分かれたとても近い親類関係です。
ハイブリッド個体は

両種の特徴を持ち合わせる新たな可能性を持った個体です。
ホッキョクグマは自分がホッキョクグマという種だと自覚し

生きているわけではありません。
激変する環境の中で命をつないでいるだけです。

雑種化は,純粋なホッキョクグマを

驚く程の早さで絶滅させる可能性があります。
きっと純粋なホッキョクグマを保全しなければといった

人間の価値基準での議論がなされるでしょう。
復元不可能な環境破壊をして

種を存続させることはコレクションでしかありません。 

そんな中,イワンが繁殖可能年齢になります。
2世誕生に期待がかかります。
ただのコレクションにしてはいけません。
ホッキョクグマ?それともヒグマ??(ゲンちゃん画伯)

2008年2月26日火曜日

モモお姉ちゃんになる!(平成20年2月)

昨年7月末にオランウータンのモモに弟(モリト)が誕生しました。
しばらくは母親のリアンはモリトにつきっきりで,
モモは明らかにやきもちを焼いて,わざとリアンを困らせたり,
怒らせたりする行動を取ったりしていました。
秋に入りモモも落ち着いてきてひとり遊びの時間が長くなってきました。

冬季開園に入り,リアンはモモの新たな教育を始めました。
弟の面倒を見させ始めたのです。
モリトをモモに預けるのです。
モモはたとえようのない満足そうな顔でモリトを受け取ります。
モリトがモモのお腹にしがみついています。
モモは片手を添えて,移動する時は膝を曲げて
モリトが落ちないように気を配っています。
リアンは横目で姉弟の様子を観察しています。
モモはまだまだ子供です。
子守に飽きるとモリトをリアンに返しに行きます。
リアンは「もう少し面度を見なさい」とモモが近寄ってくると逃げていきます。
まるで鬼ごっこです。
「もういいよ」となるとモリトが不安にならないようにそっと手を取り,
リアンに掴まらせ母親に返します。
僕が見に行くとモモはリアンの陰に隠れてしまうので(骨折で治療したから)
なかなか普段の生活が見られなくて残念なのですが…
 
最近はモモの遊び方が大胆になっているようです。
あろう事か高いところからハンモックに飛び降りる離れ業が目撃されています。
さらに姉弟での遊びも過激なものが目撃されています。
モモが垂れ下がっているロープの端を
口でくわえて手足を離してぶら下がるのです。
そしてくるくると回ります。
さらに驚くべきことにモリトがまねをしているというのです。
モリトは好奇心旺盛で,たぶんお姉ちゃんのまねがしたいのでしょう。
かなり危なっかしいと思えるのですが,
リアンが許しているのだから大丈夫なのでしょう,
と考えるようにしています。

僕が見たのはモリトが高いところでひとり鉄棒に掴まって外を眺めているところで,
それでもビックリしたのですが,
やはり二人目の子育ては大胆というかルーズになるのは
ヒトと同じなのかも知れませんね。

春になり屋外の放飼場に出たら…
きっとモモがモリトを抱えて空中散歩をする気がします。
それだけは「リアンやめさせてね」と言いたくなる光景でしょう。

モモは後2年もすると独り立ちをします。
お姉ちゃんとして過ごす数年間は,いい母親になるための大切な時間です。

オランウータンの親子(ゲンちゃん画伯)

2008年1月30日水曜日

好奇心!(平成20年1月)

明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。
干支にちなんだ動物たち、ネズミ目(げっ歯目)は,
カピバラ,アフリカタテガミヤマアラシ,エゾモモンガ,
エゾリス,モルモット,チンチラ,マウス,
そして園内のどこかに,でもそこら中にいるクマネズミ,ドブネズミ,
さらに在来種のエゾヤチネズミなどの野ネズミたち。
ちなみにトガリネズミやハリネズミの仲間は
名前はネズミだけどモグラ目(食虫目)
つまりモグラの仲間でネズミの仲間ではありません。
 
おめでとうといいながら原稿は12月に書いています。
昨日はペンギンの散歩で
ジェンツーペンギンのペアー2羽を連れて行きました。
「うれしくて」仕方がないのでしょう。
物怖じすることもなくスタスタと先頭を早足で走ります。
ふと興味をひいたものがあるとまっしぐらです。
コース右手の土手に登るは,落ち葉を追いかけるは
散歩させているスタッフは疲れ果てました。
来園者には目もくれません。
こうも純粋に警戒心よりも
好奇心が勝ってしまう生き物がいるのでしょうか。
散歩の主役キングペンギンは
それなりに周りの状況を気にかけています。
「飼育下生まれだからじゃないの?」それはないと思います。
飼育下生まれでも元来持っている種の習性や,
警戒心はあるものです。
このような振る舞いができる
ジェンツーペンギンのふるさとはどんな場所なのだろう?
一度はこの目で見てみたいと切に思います。 

今日はレッサーパンダの新施設の建設も大詰めを迎えたので,
レッサーパンダを試験的に放飼場に出してみました。
檻がなくなり戸惑うかと思いきや,
脱走防止のために貼った透明なアクリル板に頭から激突したり,
やはり好奇心が先行しました。
深さ1,5メートルの堀があるのですが,言い訳ですが深さについては
諸事情から大丈夫だろうと決めたのですが…
しばらくは「ここから先はいけないや」と気にしていない様子でした。
ところが今年生まれのやんちゃ坊主
(性別はまだ不明だけど行動からたぶんオス)が堀の底を見始めました。
すると何の躊躇もなく飛び降りました。
堀の底に溜まっていた水が飲みたかったようです。
飛び降りたら出られないのに…レッサーパンダも不思議な奴らです。
こんなのんびりとした憎めない生き物が野性で生きているなんて。
母なる地球は偉大です。
明日はいよいよ吊り橋が架かります。
オープンまで4日。
もう僕を悩ませないで欲しいなと祈るしかありません。

今年はオオカミの森です。
自分の中では大きな節目だと位置付けています。
皆さんが誇れる旭山動物園にまた一歩近づけるように頑張ります。

※この原稿はまだレッサーパンダ舎が完成していない時に書いたものです。
散歩するジェンツーペンギン(ゲンちゃん画伯)