2007年1月26日金曜日

5年ぶりのライオンの赤ちゃん(平成19年1月)

早いものでもう「明けましておめでとう」ですね。
今年もよろしくお願いします。
昨年の秋は世界各地で記録的に暖かい秋だったようです。
旭川の冬は意外と早く訪れましたね。
ペンギンの散歩も順調です。
でもしばれるような寒い日は昔と比べると確実に減っていますね。
日本最北の動物園として,「寒さ」を必要とし,寒いからこそ輝く生き物たちがいることを,
もっともっとたくさんの人に伝えていかなければいけないのだとの思いを新たにします。

さて5年ぶりにライオンに赤ちゃんが誕生しました。
5年前は4頭,しかも雄ばっかり…もらい手を探してからの計画繁殖だったのですが,
諸事情からもらい手がなくなり,
最後の子が婿にでたのは生まれてから4年もたってからになっていました。
雄の子は1才を過ぎると父親が同居することを許さなくなります。
「ここまでは面倒を見た,これからは自分で生きていきなさい」
子離れ,親離れは厳格に守られます。
今回は雌の子はいるかな?何頭かな?雌の子は跡取りとして残さないといけないかな?
色々なことを考えていました。

ネコ科で唯一群れをつくるライオン,絶対的に強い雄に守られた環境での子育ては,
他のネコ科の仲間とは全くちがいます。
ひっそりとではなく,子供たちがノビノビと草原でじゃれ合い走り回ります。
百獣の王のイメージが生まれるのもうなずけます。
5年前の子育てもまさにそんな感じでした。
5年ぶりに見ることができるんだ。
期待は高まりました。

で,10月20日。結果は雄の子1頭でした。
エッ!て感じでした。
でも落ち着いて考えると,担当者の入念な出産準備あってこそのたまもの,
暗視カメラで見る産室でのレイラ(雌親)の落ち着いた子育ての様子,
贅沢は言ってはいけないと思いました。

今回は冬に向かっての出産になってしまいました。
初めて放飼場に出すタイミング,雄親との同居,雪と寒さを考慮しながらとなりました。
兄弟がいればじゃれ合ったりして少々の寒さや雪は平気なのですが,
今回は一人っ子。
母親の尻尾にじゃれついても一緒に走り回ってはくれません。
競争がないのでどことなくおっとりとしています。
これからが冬本番,何かと心配事が増えそうです。
それにしても兄弟でじゃれ合い走り回る姿が見れないなんて…やっぱりちょっと残念です。
 
今は,母子での初放飼場は無事終わり,いよいよ雄親との段階です。
この号が届く頃には百獣の王の家族になっているでしょう。
ただ寒いので毎日放飼場に出ているとは限りません。
見れたらラッキーくらいに思っていて下さいネ。
春になればゆっくりと見て頂けますから。

ライオンの赤ちゃんの顔(ゲンちゃん画伯)

2007年1月8日月曜日

新年の独り言(平成19年1月8日)

明けましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。

2日から開園したのですが,来園される方がとても多くて,
ご挨拶を書く時間がとれず,遅い「あけおめ」になってしまいました。
昨年から急速に,社会のあらゆる分野と言っても過言ではないくらい平行して
何かがおかしくなりつつあること,歯車が狂いはじめていること,
社会生活する上での共通の価値観がなくなりつつあること,
すべての帳尻が合わなくなりつつあること等々,
少なくともいい方向には進んでいないことを実感することが多くなったのではないでしょうか。
私たちはどこに向かっていくのだろう?不安の年明けでした。
 
昨年の末に仕事で沖縄に行きました。
移動の途中ひめゆり平和祈念資料館にも行ったのですが,
祈念館は衝撃そのもので,悲惨な消耗戦,玉砕戦のなか
「それでも生きたい…」の無念が伝わってきました。
二度と繰り返してはならないことだと思いました。

しかしどうでしょう。
平和が長く続く日本で現在起きていること,年間の自殺者が3万名を超え,
いじめや殺人も日常のことのようになってきました。
戦争のない平和な時代でも荒んだ悲惨な出来事が日々起きています。
平和が「生きていること」の実感の希薄さを蔓延させるのだとしたら,
時代は戦争と平和を繰り返すしかないのでしょうか?

新年を迎えて,星野道夫さんの写真展を強引に時間を作って見てきました。
星野さんは,アラスカで自然を感じ自然の輪の中で生きる人々の生き方に共感し,
強いあこがれを抱き,その一方で現代人として生きている自分と葛藤していたように思います。
そして自分が生きる現代社会の将来に,人類の将来に,地球の将来に
強い不安を感じていたのではないでしょうか。

自然はたくさんの命があふれていながら,何も足さずに引かずに循環しています。
命が永遠にリサイクルされて,その時々でバランスを取っています。
僕たちの体を構成する原子や分子だって太古の昔から数え切れない程の命の中で
代々受け継がれて,たまたま今自分の体を構成しているだけです。
 
僕は星野さんが愛したアラスカとは対極の動物園という人間のエゴから作り出された場所で,
動物を見ています。
でも1時間くらい,ある動物を見続けていると僕らとは違う時間の流れがあることを感じます。
それぞれ種でみな違うリズムがあります。
それはきっとそれぞれの動物が生息している環境,自然のリズムです。
そして,その時間の流れの中に身を置くことがとても居心地がよく,
かけがえのないものに思えます。

僕たちヒトは自然の循環の中で生きる生き方を捨て,これからも戻ることはないでしょう。
むしろ加速していくのでしょう。
人類はもはや他のすべての生き物とは別の生き物です。
でも地球上で生きているのです。
だからこそ自然の尊さやかけがえのなさを社会の共通の価値観として
しっかりと持たなければならないのではないでしょうか。
地球と人類の共存のカギはここにあるのだと思えます。

ホッキョクグマとアザラシ(ゲンちゃん画伯)