2009年2月28日土曜日

流氷ひろば (平成21年2月)

さて,今は映画公開前の取材ラッシュです
(原稿を書いたのが1月18日なので…)。
対応に大わらわなのですが,旭川の先行上映,
そして全国上映と順調な船出を迎えられたらいいなと願っています。
それにしても今年の冬はつかみ所がありませんね。
そんなに寒いわけでもなく,
雪も全か無みたいな降り方をするし…

あざらし館念願の流氷作戦も新戦略をたてて挑んでいますが,

はたしてどうなりますか?
昨年はプールの一部を仕切り止水域として結氷できたのですが,
仕切をはずすと水温が高くなり,氷と水面の間に空気層ができてしまい
今ひとつ臨場感に欠けてしまいました。
今シーズンは循環ろ過の宿命である
高水温をいかに下げるかに挑んでいます。
ちょっとマニアックな話になるのですが,
あざらし館のプールの水は,循環ろ過をして透明度を保っています。
アザラシは水中で糞を大量にするので,
ろ過能力はぺんぎん館などよりも高能力です。
プールの水約250トンを一時間でろ過する能力があります。
ちょっと乱暴な言い方ですが一日に24回
水を入れ替えていることになります。

さて問題はろ過器のある機械室は

プラス5度以上に保たなければいけません。
さらに来園者のはいる館内は十数度になるようにしています。
つまり保温している状態なのです。
あざらし館のろ過はちょっと特殊で,
透明度を維持する物理ろ過槽の他に,
巨大な生物ろ過槽があります。
これは透明度を維持するためではなく,
水質を魚がすめるようにするためのものです。
水質の検査を継続する中で,
この生物ろ過はそれほど有効に働いていないことが分かっていたので,
このろ過槽のろ剤を入れ替えて物理ろ過槽にしました。
そしてろ過流量を下げて,
プールの水がより長く外気温にさらされるようにしました。

さらに夜間ろ過を止める試みも始めました。

オープン以来24時間ろ過は稼働していました。
来園者が不快に思うくらいに水が濁るのが怖くて
ろ過を止める試みはしていませんでした。
そこで正月の閉園期間中に夕方からろ過を止める実験をしました。
朝,ろ過を始めると開園の時間までには水の濁りは許容範囲まで
回復することが確かめられました。
現在まで(1月18日)この方法を継続することで,
最低気温が下がらない中で,
水温は徐々に下がり3度台まで下がって来ています。
躯体(くたい)のコンクリートも冷えてきたようです。
ここで一気に大量の雪を投入して表面が凍れば
流氷作戦に明かりが差し込みます。
明日,第一弾の雪大量投入作戦を決行します。
担当者も頑張っています。
どんな結果になるか楽しみです。
この手紙が届く頃には
もしかしたら水中から流氷の底を見上げる景色が…
そんなに甘くはないかな…
 

(無事に流氷広場が完成しました。
    あざらし館のコンセプト「流氷と共に生きるアザラシ」が実現できました!)
流氷ひろばのゴマフアザラシ(ゲンチャン画伯)

2009年2月15日日曜日

クリスの悲報 (平成21年2月8日)

オオカミの雌クリスが2月7日朝死亡していました。
頸部に咬傷があり床には血痕がありました。
解剖の結果、頸部には牙が貫通した傷が多数あり、
出血した血液が肺に入り窒息により死亡したことが確認されました。
一方的にやられた状態で、他の2頭、ケンとメリーには争った傷跡もなく
何事もなかったかのように平然としていました。
当園でのオオカミの飼育の目標は、
ゲンちゃん日記平成20年5月オオカミらしくを目指してを参照してください。
ゲンちゃん日記:オオカミらしくを目指して

クリスは当初から人に対する依存度が高く、

担当者や飼育係を見つけると甘えた声を出し檻越しにすり寄ってきました。  

前飼育地でも群れのリーダーを追われた個体とだけ同居が可能で、
常に最下位の個体でした。
「オオカミの森」がオープンした当初、オオカミ同士での行動を見ていると、
明らかに相手がいやがっているのにまとわりついたり、
間が読めない行動が頻繁に見られました。
下手に出て甘えるしぐさをしたり、3頭の中に餌を入れると
クリスが食べていてもケンやメリーが唸るとあっさりと餌を手放す状態でした。
ケンとメリーは一歳になったばっかりでまだ精神的に成獣ではありません。
体格では負けていたのですが、精神的な部分で特にメリーに対して
優位な地位を保ってほしいと見守ってきました。
秋になり運動量も増えクリスの体格は明らかに逞しくなってきました。
前足の跛行も目立たなくなってきました。
遠吠えもしっかりとするようになりました。
甘えるようなしつこい行動は見られるのですが、
決して下手に出るだけではなく
時には唸られると唸り返したりもするようになってきました。
ケンが明らかに優位でクリスとメリーの関係は微妙な状態でした。
ただケンはメリーと行動を共にする場合が多く見られてはいました。
これはメリーにとってはとても優位な条件になります。

冬になり年が明け、クリスに発情の兆候が見られました。

陰部に軽い発情出血が認められるようになりました。
クリスの行動は特にケンに対して積極的になり始めました。
ケンとメリーが並んでいると間に割って入ったり、
メリーを牽制したりするようになりました。
ケンも積極的とまではいえませんが、クリスの匂いをかいだり、
追尾するような行動も見られました。
遠吠えも3頭同じ場所ですることが多くなりました。
メリーには発情の兆候は見られていなかったので、
この状態ならば当初の目標通り
ケンとクリスでの繁殖が達成できるのではないかと
思われていた矢先の出来事でした。

クリスとメリーの上下関係や、ケンとの関係がはっきりとしないまま、

クリスに発情が来てしまったことが今回の出来事の原因だと思われます。
ケンが伴侶としてクリスを第一位の雌と認めていたならば
今回の事件は起きなかったはずです。

ケンなのかメリーなのか発情の来たクリスを排除しようとする感情が
強く働いてしまったと思われます。
咬傷は頸部のみに集中していたので
ケンとメリーのどちらか一頭による攻撃だったと思われます。
前日夕方まで放飼場では
死に至る攻撃を受ける兆候は認められていなかったので、
寝室内で攻撃を誘発してしまう何かが起きたのでしょう。

体格も逞しくなり、僕が檻越しで見ていても甘えるしぐさを見せなくなり

オオカミとしての自覚が確実に育って来ていたのですが
残念な結果となってしまいました。
ケンとメリーは兄弟なので
この2頭でのペアーの形成は避けなければいけません。  
旭山での将来の計画は抜本的に見直さなければならない状態になりました。