2007年8月26日日曜日

子育て奮闘記(平成19年8月)

6月に孵化したイワトビペンギンの雛3羽と
キングペンギンの雛1羽も順調に生長しています。
イワトビペンギンの3羽には複雑な事情があります。
イワトビペンギンは通常2つの卵を産みます。
でも育てるのは1羽です。
これは長い年月をかけて備わった習性です。
野生下では1羽を育てるのがギリギリなのでしょう。
ですから1卵はもしもの時のための保険なのです。
ワシタカなどの猛禽類やフクロウなどでも親が運ぶエサの量が少ないと,
先に孵った大きな雛が後に孵った小さな雛を食べてしまうことがあります。

複雑な事情とは,イワトビペンギンのペアーが巣を構えて2卵を生みました。
その隣で相手のいない雌1羽が1卵を生みました。
1羽では抱卵の負担が大きく体調を崩すので巣を取り除きあきらめさせました。
何かのアクシデントで卵が割れたら大変なので
親鳥には偽物の卵(擬卵)を抱かせて本物は孵卵機に入れて暖めます。
なんと3卵とも有精卵でした。
抱卵をあきらめさせた雌の相手は隣のペアーの雄と思われました…。
それはともかく,3卵とも孵化したらどうしよう?
1羽を親に2羽を人工に,が常套手段なのですが,
できるだけ親鳥に関わりを持たせながら育てたい,ということになり
順番に雛を親に預けてローテーションしてみようということになりました。
2日は飼育係、1日は親鳥が面倒を見ることになります。
問題は親子の認識です。

鳥類は一般に卵から孵る前に親子の認識をするといわれています。
孵化が近づくと卵の中から雛の鳴き声が聞こえます。
お互いに声で親子の認識をするのです。
ところがペンギンは観察するに巣の中にあるもの,
いるものには寛容なのではないかと思われることがあります。
キングペンギンに到っては
(キングペンギンは足の上で卵を抱き,雛を育てるので巣は作りませんが…)
他種の雛でも奪い取って自分で育てようとすることさえあります。

てな訳で,雛のすり替えを決行することにしました。
結果は予想どおりでした。雛を替えてもちゃんと面倒を見ます。
3羽を別の個体と認識しているのか識別していないのかは分かりませんが…。

さらなるハードルは雛が巣から出てからです。
野性ではある程度大きくなった雛は雛だけで集まり
クレイシと呼ばれる幼稚園を作ります。
この時期は完全な親子の認識があって,
親は自分の子以外にエサを与えることはありません。
はて3羽とも我が子と認識するのか,1羽だけを認識するのか?
どうなっても飼育係のこともエサをくれる人と認識しているので,
親鳥と共同で子育てができます。

さて、もくろみ通りに事が運んでいましたが,雛が巣から出る頃,
暑さと,フンボルトペンギンが雛を攻撃したりで,残念ながら3羽の雛は
室内での人工育雛としました。
現在は雛の羽毛から成鳥の羽根に生え替わる時期を迎えています。
飼育係がついて泳ぎの練習や,群れの仲間に入る練習をしています。
イワトビペンギン3兄弟(ゲンちゃん画伯)

2007年8月10日金曜日

おめでとう!リアン!!(平成19年8月1日)

7月は,開園40周年,アムールヒョウのビック,
ホッキョクグマのハッピーの死,
そしてオランウータンのリアンが7月30日に第2子を出産しました。

生と死は向かい合わせであること,動物園が年を重ねることは,
年輪を重ね樹木が大地に根ざすように,
たくさんの誕生と死が積み重なり
動物園の存在が地域に根ざし,責任も大きくなるんだなと
いろんなことを考えさせられる一ヶ月でした。 

7月30日12時半頃,「リアン出産」の無線が入り,
飼育職員がたくさん駆けつけました。
僕たち飼育係が一斉に集まったのには訳があります。
リアンは長女モモを出産した時,育児放棄をしていたのです。

オランウータンは群れを作りません。
子供は8才くらいで母親から離れ独立します。
大人の雌と雄が共に過ごすのは交尾の時期のほんの数日だけです。
雌は10歳前後から出産できるようになり
4~5年おきに子供を産みます。
子供は自分の弟か妹が生まれてから
数年で独り立ちと言うことになります。
つまりこの時期に自分が親になった時の大切な学習をするのです。
オランウータンの4~5才というと,
好奇心が旺盛でとても多感で学習能力の高い時期です。
ちょうどこの時期に弟,妹が生まれます。
とてもうまくできているな,と感心してしまいます。
それにしても母親の母性は僕なんか,
というか男性から見ると,尊敬に値します。
オランウータンは単独で生活するので
群れのメンバーが育児を手伝ってくれるということがありません。
24時間×365日×4年間ずっと子供と一緒です。
さらに次の子が生まれるとやんちゃ盛りの上の子と,赤ちゃんです。
大変ですね。
一方的に与え続ける愛情があるのです。

リアンは台湾の動物園生まれで,6歳の時に旭山に来ました。
母親が弟,妹を出産しなかったために出産を見ていません。
リアンは10歳の時にモモを出産したのですが,
われわれは「育児ができない可能性があるのでは?」
と考えていていました。
出産しても子を抱かない,あるいは授乳をしないことを想定し,
飼育係が「仔を乳首に吸い付かせる」
ことができる信頼関係をリアンとの間に作りました。
03年3月24日リアンはモモを生みました。
やはり予想は的中しました。
地面に置いたまま抱こうとすらしません。
担当者が寝室に入り,リアンの乳首に子を吸い付かせ,
子をリアンにあずけました。
リアンの「母性」のスイッチが入りました。
戸惑いながらも抱きかかえて
二度と地面に起きっぱなしにはしませんでした。
次の日リアンの顔は「母親の顔」になっていました。
子に触ろうとすると怒りました。
「哺乳類」これはただ単に分類上の言葉ではありません。

リアンとジャック(雄)は昨年の10月,11月,12月と交尾をしました。
1月と2月には尿で妊娠の判定ができる簡易検査で
妊娠陽性の反応がでていました。
オランウータンの妊娠期間は約270日です。
7月下旬から9月に出産するだろうと観察していました。
ここ一ヶ月くらいはイライラすることが多く,
モモに当たり散らすこともありました。
お腹も大きくなり,おへそが出っ張ってきました。
7月30日,「出産!」の無線に
今度は大丈夫かな?という不安がよぎりました。
しっかりと抱っこしています。
モモも興味津々です。
「大丈夫だ!」これからのモモ,
そして子の生長を見守っていきたいと思います。

そうそう大事なことを書き忘れていました。
子供はオスでした。
それと8月1日から通常通り,皆さんにごらんいただく予定です。
オランウータンの親子(ゲンちゃん画伯)