2002年9月30日月曜日

ホッキョクグマのコユキ (平成14年晩秋)

今年も去年に続き、冬の訪れが早いですね。
11月に入った早々から雪が降り、「すぐに溶けるべ。」
と思った雪が結局は溶けませんでしたね。

さて低温水槽のバクテリアも無事に機能を始め、
オオカミウオのビアンカは体調を回復し食欲旺盛です。
最後のホッケも退院して、元気になりました。
そろそろ魚の補充も考えなきゃなと思っています。

ほっきょくぐま館ではコユキを初めて放飼場に出しました。
電柵に触ったりしていましたが特にどうということもなく
、無事、初放飼は成功かと思っていたら、昼休みあけコユキがいません。
なんとモート(堀)に落ちて転落時の怪我防止用に張ってあった
水中を泳いでいるではありませんか!
おかげで一ヶ月近く部屋の中で過ごしていて
真っ黒になった体が真っ白くきれいになりました。
それにしてもずいぶん迷ったのですが、
モートに水を張れるようにしておいてよかったなと思いました。

次の日、いよいよカンゾーとの同居(ペアリング)です。
コユキは見た目は小さくてかわいい顔をしているのですが、
気の強さ、頑固さでは当園の歴代ホッキョクグマの中でもピカイチです。
体格では倍もあろうかというカンゾーが出てきても全く動じません。
むしろカンゾーがビビッてしまい、コユキがズカズカと近づき
「なによあんた!いてもいいけど目障りにならないようにしなよね」
と眼を飛ばすとカンゾーは
「すいません、よろしくお願いします。」と同居成功です。

そして,今までコユキを放飼場に出せなかった大きな理由、
「出たら入らない」。
通常,放飼場から寝室に入らないと餌は与りません。
寝室に入ってくれないと放飼場の掃除もできないのです。
雪が積もるようになり「汚いもの」が隠れるので、
このときを待っていたのです。
兵糧責めをしても、コユキは一ヶ月近くは平気です。
そしていよいよお腹が空くとこびることなく
何食わぬ顔をして入ってくるのです。
ちなみに11月21日現在,15日間寝室に入っていません。
コユキが人間だったら、典型的な同性の女性からは嫌われて、
男性からは「生意気だけどかわいいから、何をしても許されるよね。」
タイプですね。
まぁいつか入るでしょう。

あっ,重大な問題が一つ発生。
ほっきょくぐま館の目玉、世界初のアザラシ目線のカプセルに
雪が積もって見ることができない時があるのです。
コユキがいて、朝雪かきができないのです。
なんか対策を考えなきゃ。

ホッキョクグマ

画:ゲンちゃん

2002年9月15日日曜日

ほっきょくぐま館!いよいよオープン(平成14年秋)

今年度、最大のイベント「ほっきょくぐま館」のオープンもまぁ及第点でしょか。
どうしてもここにお客さんが集中するので、
観覧までの待ち時間が長かったりとご迷惑もおかけしました。
オープンまでのひと月は短いようなとても長いようなひと月でした。

9月3日、上川町の北の森ガーデンにいる
今年29歳(日本最高齢)になるカンゾーの麻酔を行い、輸送檻に入れる。

9月5日、当園で飼育しているコユキ(今年27歳)とハッピー(同22歳)、
そしてロシアより購入し、
もうじゅう館で飼育していたイワン(同2歳、仮名)の3頭を麻酔し、
ほっきょくぐま館の寝室に移動、この時点では工事は続いていて、
放飼場はまだ使えない。
一日も早く寝室に慣らすのが目的です。

9月6日、カンゾーを上川より搬入、麻酔後寝室に入れる。
カンゾーとコユキをカプセルのある放飼場に出し、
ハッピーとイワンを水中が見える放飼場に出すことにしました。
カンゾーとコユキは正直ご老体です。
水中を泳ぎ回って遊ぶにはかなり無理があります。
決定はしたのですが大きな問題がありました。
それぞれのペアリング(同居)がすんでいないのです。
ホッキョクグマは、陸上最大の肉食獣で、
本来は単独生活をする動物です。
同居は慎重に行う必要があります。
檻越しでのお見合い、精神安定剤を使っての同居と
通常でも3週間は必要とします。
できればオープンまでにはと考えました。

9月13日檻越しにお見合い。
カンゾーがコユキを、イワンがハッピーを極端に怖がる。
獣舎に慣れないうちに、恐怖心が強くなるのを警戒しお見合い中止。
それぞれ1頭ずつで展示することを決定しました。

9月15日、カンゾー初放飼。電柵を5回も触って腰を抜かすが、
どこが触ってダメかを学習。まずは成功。

9月17日、小樽水族館に展示用の海水魚をもらいに行く。

9月18日、午前イワンを午後にハッピーを初放飼。それぞれ2回感電。
ハッピーは大ショック。

9月19日、イワン、餌に釣られて初泳ぎ。
ハッピーは出るけど扉の前から動かず。

9月20日、オープン前日。
なんと海水魚水槽1本の魚が大量死。
どうにか毛ガニを確保。
海水を作り入れ替えるが、夜水槽の冷却装置故障。
どうにかなったがガックリと疲れる。
結局,カンゾーとイワンにそれぞれ頑張ってもらうことに。

ペンギンやアザラシの様に水中にいる時間が長い動物じゃないこと、
基本的に無駄な動きはしない肉食動物であること。
この2点で今回は苦労しました。
手作り看板を増やし、少しでも皆さんの満足度が高くなるよう頑張ります。
冬もう一度見に来て下さい。
それまでにはペアリングも終わり、展示も充実していると思います。
すべてパーフェクトでオープンできなかったのがちょっと残念でした。

ほっきょくぐま館がオープンして、さらにたくさんの方が来園してくれたので、
夏期開園期間中の入園者が、旭山動物園創立からの最高記録、
なんと60万8千人を達成しました。
一日平均で3千5百人にもなります。
残念なのは土曜、日曜日に来られた方は、通行整理の上、
待ち時間まであるような状況で動物を観てもらわなければならなくて、
僕たちが観てもらいたいと思っている動物の姿や、
手作りの看板などを満足に見てもらえないことです。
きっと「なんだ…」と感じられた方も多いのではないかと思います。
そんな方は、どうか平日に来て、ゆっくりと過ごしてみて下さい。


ホッキョクグマのイワン

画:ゲンちゃん

2002年8月30日金曜日

飼育係とは?(平成14年夏)

今年もはや7月ですね。
皆さんは今年の目標の達成のめどは立ちましたか?

動物園では冬期開園が終わり、
4月の閉園期間中に各人が獣舎の模様替えや
解説板作りなどたくさんの目標を立て、
みんなで協力して4月末の夏期開園に向けて突っ走ります。
4月は全員休みなしで働きます。
正直、この時期エネルギーを使い果たして、
数ヶ月は惰性で過ぎていきそうになります。

当然やりきれなかったこともあるし、
一年に一度しかない繁殖期を迎える動物たちもたくさんいます。
何もしなくても繁殖するわけではありませんから、
後悔しないように準備もしなければいけません。
行事も昨年の結果をふまえてよりよいものにしていかなければなりません。

今は、北海道内の動物園・水族館の飼育係が集まる飼育研究会の準備と
新たなホッキョクグマを迎え入れる準備に精力を集中しています。
8月はサマースクールと親子動物教室、
9月はほっきょくぐま館オープンと続きます。
はたして今年も頑張ったなと年を越せるのか、後悔ばかりがたまるのか、
まぁそうならないように頑張るしかないですね。

そういえば、今年度から「ごはんの時間」を「もぐもぐタイム」と改めました。
数ヶ月前にこのコーナーで
「今日のごはんに時間はありません。」の看板の前で、
「今日はごはんあたらないんだ、かわいそうだね。」と漏らす人が多くて、
何かいい呼び方はないですかね、と書きました。
たくさんのご意見をいただき、その中に「もぐもぐタイム」がありました。
「これだ!」ということで採用させていただきました。
ありがとうございました。

話を戻して、年に1度の繁殖期、特に地元の鳥たち、
野外ならば当たり前に繁殖しているのですが、
飼育下ではとても難しいことが多いです。

ただ1年間生かしておく、飼うだけならば、
今の僕たちにはそれほど難しいことではありません。
でも限られた条件の中で繁殖という一番重要な営みをさせてこそ、
本当の「飼育」だと思います。うちはみんなよく頑張ってます。
一生懸命ならば失敗からもたくさんのヒントがあり、来年につながります。 



飼育係

画:ゲンちゃん

2002年4月30日火曜日

人次第(平成14年春)

今年は雪解けも早く、近頃記憶にないくらい、
雪との格闘が無い年でした。
なにせ4月の夏期開園の日には
「芝生が緑で雪がない。」のが至上命令というか
慣例になっているので、雪を消すのに
大変な年は本当に大変なんです。
ほっといても無くなる雪と、
暖かい日差しを浴びながら汗をかきながら格闘するのは
どこかむなしいものがあります。
 でも早すぎるのも心配です。
「ととりの村」の池の水です。
冬の間、水を抜いていて、
4月の中旬頃に池を掃除してから雪解けの沢水を入れるのですが、
雪が少なかったこともあり、今年はどれだけ沢水があるのか心配です。
それと桜も心配ですね。
ゴールデンウィークと桜が重なると大混乱しそうです。
こんな心配もすることがあるのですね。
ここまで気候が狂うと、今年はどうなるのかなって考えてしまいます。

さて今年は「ほっきょくぐま館」がオープンします。
ぺんぎん館に続いて冬の主役となる建物ですね。
今、一番の悩みは動物の確保です。
去年、相次いでホッキョクグマの雄が死亡しました。
現在は2頭の雌を飼育しています。
新しい建物には放飼場が2カ所、産室も2カ所あります。
つい数年前までホッキョクグマの入手は比較的容易でした。
ところが、現在はほぼ不可能に近くなっています。
原因は日本の動物園での繁殖が全くうまくいっていないことと、
外国から入ってこないことが原因です。
ホッキョクグマは「ワシントン条約」の2表の動物で、
輸出国の政府の許可があれば輸入できます。
じゃあ原因は野生での個体数が減っている、
あるいは飼育下での個体数が減っている、ということではないのです。
本来の生息地ではない地域に持ち出すことを制限し始めたからなのです。
ペンギンもそうです。

動物園は人間が勝手に動物を閉じこめ、飼育している施設です。
野生の動物を生かすのも殺すのも「人間次第」です。
動物園が飼育している動物を通して何を伝えるのか、
お金さえ出せばといったおごりがないのか、
今一度しっかりと考えなければいけない時代になってきたといえます。

動物園の存在が地球のためになるように、
野生動物の世界と人の世界を結ぶ架け橋になるように
努力をし続けなければと思います。

ホッキョクグマ

画:ゲンちゃん

2002年2月20日水曜日

サンタのそりを引くトナカイは…(平成14年早春)

あけましておめでとうございます。
今シーズンから入園料を頂いて、冬期オープンをしていますが、
もういらっしゃいましたか?

トナカイはごらんになりましたか?
僕は初めて自分の動物園の一員としてまじまじと観察したのですが、
かなりいけてるなと感じました。
シカの仲間なのに、メスにも角があり、ラクダのような大きな足をしていて、
歩くたびにカチカチと音がして、大きな目と大きな鼻ずら、
オットでも鼻ずらは毛で覆われていて、赤鼻なんてことはないですよ。
パーツごとに見ると結構ユーモラスで、愛嬌があります。
ところでトナカイの語源、知ってます?アイヌ語なんですよ。
樺太にはトナカイがいるんですね。
ちなみに英語ではカリブーです。

旭山動物園のトナカイは、フィンランドのラップランド地方で
昔から家畜化されていたトナカイで小型です。
フィンランドと聞けば、サンタクロースですかね。
なんでサンタ=トナカイなんだろうと思い、調べたところ、
結局は「煙突ないのにどうやってサンタさん来るの?」
との質問にもめげずに、
こっそりと贈り物をするあの儀式は、バレンタインのチョコレートと同じで、
仕組まれたものなのでした。

サンタのふるさともフィンランドとノルウェーにあって、
こっちが本家だとか言ってるらしい…。
ちなみに広尾のサンタランドは
ノルウェーのサンタさんと仲良しみたいですね。
でもまぁ、夢があっていいですね。
サンタを信じている子供をお持ちのお母さん、
読み終わったらこの手紙は破り捨ててくださいネ。

さらに調査したところサンタのそりを引くトナカイはメスです。
なぜなら雄のトナカイはクリスマスまでには角が落ちてしまうからです。
書いていてむなしいものがありますが、これは使える話でしょ!

今年は午年なのに、なんでトナカイのはなしかって?
きっとこの手紙を書いているのが、クリスマス前だからです。

トナカイ

画:ゲンちゃん