2008年12月31日水曜日

命の恵み (平成20年12月)

冬期開園も無事に始まりました。
どうなるか分からないのですがホッキョクグマのルルの出産準備も整いました。
オオカミも新しい雌がカナダからやってきます。
10年後20年後を考えて

世代交代ができるような群れを形成していきたいと考えてのことです。
ケンとメリーが若い内ならば,新参者を迎え入れてくれるでしょう。
オオカミの繁殖にも僕たちは期待しています。
発情期は年に一回2月頃です。
守るべき命が誕生することで,よりオオカミらしく生活をするようになるでしょう。
順調にいくと来春には…楽しみですね。

今年の冬の足音は順調ですね。
(広報を書いたのが11月だったので…。12月はなかなか雪が降りませんが…)
冬の使者,ハクチョウなどの水鳥類も渡ってきました。
高病原性鳥インフルエンザの問題が発端となり,
餌付けの自粛への取り組みが各地で始まっています。
野生動物との本来の関係を取り戻すことに

関心が向いてくれればいいのですが。
旭山動物園でもスタッフが中心メンバーとなり

永山新川での餌付け問題に取り組んでおり,
着実に成果を上げつつあります。

ただし感染症を怖がるだけで

日本中が一斉に餌付けをやめてしまうことには不安もあります。
彼らが越冬する場所も人と関わらずに確保できる餌場も

当然ながら不足しているはずです。
科学的な検証をしながら,彼らから奪ったものを補ってやるという発想も
一方でしっかりと検討していかなければいけないでしょう。
高病原性鳥インフルエンザは不自然で濃密な接点を持たなければ,
必要以上に恐れる必要はないのです。

このことは国民共通の理解にしておきたいものです。

弱っていたり傷ついたハクチョウを見つけると

「助けてあげたい」と誰もが思います。
ごく自然な感情です。
でも動物たちからするとどうでしょう?
厳しい冬を迎える前のキタキツネや大型の猛禽類などにとっては
ハクチョウはシベリアの大地からの大切な恵みです。
過酷な渡りの過程で年老いたものや体力のないもの傷ついたものは

脱落し死亡していきます。
ハクチョウにとっても自分たちだけが増えすぎないための大切な営みです。
死はすべて恵みになります。
日本の大地の恵みで命をつないだハクチョウたちは

春その恵みをシベリアの大地に運びます。
すべての営み,命は循環しています。
今守らなければならないのは,個ではなく仕組みそのものです。

それが「保全」です。

僕たちの住む日本や先進国,急速な発展をしている国は
食べ物やエネルギーや木材を大量に輸入しています。
そして国内で消費し尽くして,恵みをくれた大地に何も返していません。
地球環境が病んでいる大きな原因の一つです。
ハクチョウを見習い循環する仕組みを作り出さなければいけないですね。
渡るコハクチョウ(ゲンチャン画伯)

2008年11月30日日曜日

市民感謝開放の日に (平成20年11月)

今日は市民無料開放日,夏期開園が終わりました。
夏期来園者数は210万人と昨年度の一割減でした。
減ったと言っても実質6ヶ月での数ですから,
それはそれで,普段人混みに免疫のないわれわれ市民にとっては,
行くのをためらう数字なのかも知れません。

今日は小春日和でみな思い思いのペースで園内を回り過ごされています。
とてもいい感じです。
いろんなものを背負ってしまった旭山動物園,
これで良しとはならないし,難しいですね…。
どうであれ,来園される方が気持ちよく来園できて,
たとえ混んでいても「来てよかったね」と感じてもらえるような
努力をし続けなければいけないと実感した夏でした。

「来園者のために」を軸に努力をして,
その結果,経済的な利益がついてくる,
動物園に関わる方々にはこの思いだけは共有して欲しいと,
僕たちスタッフは思っています。

さて,明日から恒例の越冬準備です。
今年は期間が短いので大変です。
エゾシカの森の建築も始まることだし。
そういえば久々に誕生したジェンツーペンギンのヒナもあっという間に生長し
水中を泳ぎ回っています。
まだまだ,上手とは言えないのですが…
キングペンギンのヒナは,まだまだ茶色のキウイで,
親鳥のそばから離れず屋外放飼場に出てきません。

このヒナはペンギン散歩に出てきてしまうのだろうか?
ヒナは途中で散歩をやめてしまうから,抱えて戻らなきゃいけないので,
今からどうなるのかな,
なんてことを考えながら日々の成長を見守っています。

今年,ぺんぎん館では鳥マラリアの発生が確認されました。
現在死因調査中のものも含め数羽が死亡しました。
スタッフ一丸となって初期症状での発見,治療を行った結果,
収束させることができました。
カに刺されることで伝染するのですが
(もちろんヒトに感染することはありません)
来年以降の予防対策を考えていかなければいけません。

過去の死亡例を調べてみると
過去にも発生していた可能性があったのですが,
集団発生は今年が初めてでした。
僕たちには感じることができない環境の変化が
起こり始めているのかも知れません。

降雪量の変化や雪解けの早さなどで,
今まで余り問題になっていなかった
道南や道央でもエゾシカが爆発的に増加しそうな気配です。
季節のリズムが変わり始めているのかも知れません。
エゾシカをとおして北海道の自然を考える
エゾシカの森のオープンも急がなければいけないな!
そんなことを思いながら(皆さんには申し訳ありませんが)
つかの間の静かな動物園を満喫させてもらおうっと。

2008年10月30日木曜日

「エゾシカの森」序章!(平成20年10月)

9月も中旬に入り,朝晩は秋らしくなってきました。
エゾシカの角も生長し袋角が破け立派な角になり始めました。
エゾシカはこれからが恋の季節です。
もう少しすると,エゾシカは灰色がかった茶色の冬毛に衣替えです。
葉が落ちた林のモノトーンにとけ込むためです。
昔はオオカミから身を隠すためだったのでしょうが…
エゾユキウサギやホッキョクギツネも真っ白に衣替えです。
そしてオオカミも毛足の長い冬毛に換わります。
小高い雪山に登り,白い息を吐きながら遠吠えをする姿を想像するだけで
早く冬が来ないかと待ち遠しくなります。
ほんの100年少し前まで旭山でも
野生のエゾオオカミが遠吠えをしていたことでしょう。

さて,6月にオープンしたオオカミの森,
実はエゾシカの森が隣にできて始めて完成です。
そのエゾシカの森の設計も終わり年度内の完成を目指し着工します。
みなさん実はエゾシカも絶滅したと考えられていた時期があるのをご存じですか?
エゾオオカミを奨励金を出して駆除し,オオカミによる家畜の被害がほぼなくなり
奨励金制度をやめた1888年の翌年,エゾシカが禁猟になりました。
オオカミの駆除と平行して,
エゾシカの毛皮や角を商品として大量に捕殺していました。
その数は年間10万頭を下らなかったと言われています。
このままではエゾシカがいなくなると心配し禁猟措置をとったのです。
オオカミにとっては主食のエゾシカはいなくなる,家畜を襲うと殺される,
飢えと恐怖の中で消えていったのです。

ちなみにエゾオオカミに人が襲われた事例は一件もありませんでした。
その後一度エゾシカ猟が解禁になるのですが,
1920(大正9)年再び禁猟となります。
しかしこの時すでにエゾシカは絶滅したと考えられていました。
しばらく時は流れて1942(昭和17)年日高と置戸の山奥で
エゾシカはひっそりと息をつないでいました。

その後着実に数を増やし,1985(昭和60)年頃にエゾシカの数が
北海道の森が養える数を超え農業,林業の被害が顕在化してきました。
そして今農業被害だけではなく,本来のすみかである森すらも破壊してしまう
モンスターになってしまいました。

豊かな大地北海道は,私たちだけのものなのでしょうか?
 
「エゾシカの森」では畑を作り
市民と一緒に種植から収穫までやりたいと考えています。
きっとエゾシカに食べられたり荒らされたりするでしょう。
でも植えたら収穫したくなるはずです。
その過程の中で,僕たちも自然の中でエゾシカと共に生活しているんだ,
僕たちの生活圏と自然に境界線なんてないんだ,
ということに気づいて欲しいと思います。

絶滅に追いやったオオカミ,増えすぎたエゾシカとヒトの生活,
これがおおきなコンセプトになります。
水を飲むエゾシカ(ゲンちゃん画伯)