1999年7月1日木曜日

命(平成11年夏)

去年はもうじゅう館、今年はサル山の建設に追われています。
7月23日に完成・引き渡し、7月25日のオープン予定です。

例によってサルを新獣舎にならす時間がないので、
19日に寝室だけを引き渡してもらって引っ越しをする予定です。
サル山の目玉は「ヒトとサルの比較」です。
仕掛けは完成してからのお楽しみです。

さて,毎年この時期になると憂鬱なことが必ず起きます。
ウサギやアヒル、ニワトリなどが捨てられているからです。
電話での引き取り依頼もたくさん来ます。
ほとんどが「お祭り」で衝動的に飼い始めてしまった動物たちです。
当然ですが動物園では家畜やペットの引き取りは一切していません。

それが、ただであろうが数百円であろうが、
飼い始めた命には責任をとらなければいけないと思います。
家畜やペットは、僕たち人間が飼うために、
長い年月を掛けて「改良」して作り出した命です。
ヒトが飼って初めて生かされる命です。
飼い主のいないペットは哀れです。
捨てる人は自分が手を下さないから、
動物園に捨てればもしかしたら幸せになれるかもしれない、
いや自分が飼うよりもきっと幸せに違いないなんて
自分をごまかしているのでしょうか?

捨てられている動物を生涯飼育する場所もないし、
どんな飼われ方をしていたのかも分からない、
危険な病気を持っているかもしれない動物を、
園内で飼育することは出来ません。
通常の手術をする麻酔をかけて安楽死をしています。
僕だって「可愛そう」だと感じます。
でも、動物園はその命に責任が持てません。
自分が飼い主になれないのだから選択肢はありません。 
里親探しをしたら?
なるほど、でも残念ながらそんなことをしたら
動物園は動物の捨て場になってしまうでしょう。
毎年繰り返される、捨てられた動物を見ていると
みなさんのことが信用出来ないのです。

どんな理由であれ、もらい手も見つからず飼えなくなった命には、
たとえいくら掛かろうと自分が安楽死を決断し
責任をとるべきだと思います。
飼い始めた命を真剣に考えれば、
少なくとも「捨てる」という選択肢はないはずです。

ウサギ
画:ゲンちゃん

1999年4月30日金曜日

開園準備(平成11年春)

今年の冬はみなさんも雪には悩まされたのではないでしょうか?
これでもか、と追い打ちをかけるように雪が降りました。

4月に入っても園内は80センチの積雪がありました。
例年4月29日の開園前の4月は堆肥出しや砂利入れ、
動物たちのための遊具の取り付け、
サルや鳥の止まり木の取り替え、冬がこいの取り外し、
動物の移動などたくさんの作業に追われます。

ところが今年は、4月の中旬まで雪割りしかできませんでした。
開園始まって以来初めて園内の排雪もしました。
動物園が所属する商工部の人たちにも、
雪割りの応援をしていただきました。
その甲斐あって、開園はいつものとおり
雪のない状態でオープンできそうです。

「雪のない動物園でオープンすること。」
これはだれが決めたことでもないのですが、
破ってはいけない「掟」のように職員みんなに重くのしかかっていました。
「ほっておいてもいつかなくなるのに…」
頭のどこかにこんな思いがあっても来る日も来る日も雪割りで、
建設的でない作業に気が滅入ったりもしました。

動物たちはそんなこと知ったこっちゃなくて、
トラは毎日降る雪の中で真っ白になって走り回っていました。
だけど4月中旬、雪が解け初めて表面が堅くなり滑りやすくなると、
トラの雌・ノンは外に出たがらなくなりました。
初めてスケートをする人みたいに、
ちょっとでも足が滑ると動けなくなるので、
見ている僕らは大笑いしていたのですが、
本人には大変なことだったようで、
あまりにも体中に力が入りすぎて腰を痛めてしまいました。
オスのいっちゃんは全然平気で走り回っていたので、
ノンは運動神経が鈍いのか、恐がりなのか、
コンクリートで平らなところしか知らない都会っ子なのかそんなとこでしょう。

この手紙を書きながら園内を見ると芝生が緑になっていて、
ほんの少し前の真っ白な風景が嘘のようです。
やっぱりほっておいても、
消えてなくなってたんじゃないかななんて思ってしまいます。

ニホンザル
画:ゲンちゃん

1998年10月31日土曜日

もうじゅう館part2(平成10年秋)

今シーズンもたくさんの方に来ていただいて、
ありがとうございました。
来園者数は開園30年目の昨シーズンより
4万人あまり多い34万人でした。
特に、猛獣館がオープンした10月の入園者の多さは
ちょっとした事件でした。

特に珍しい動物を入れたわけでもなく、
今まで飼育していた動物の「見せ方」を変えただけなのに、
こんなに喜んでもらえるなんて、
これからの動物園を考える大きな材料になりました。

 さて猛獣館ですがたくさんの方から苦情?がありました。
ほとんどが次の3点でしたのでいいわけをさせて下さい。

「トラの地面が土だけでドロドロでかわいそう、ライオンは芝生なのに…。」
トラの地面には落ち葉を敷き詰めたいと思っていましたが、
落ち葉が間に合いませんでした。
トラは森林、ライオンは草原はっきりと分けたいと思っています。
来年はトラの放飼場は落ち葉がびっしりで、
ササやススキがはえていますよ。
 
「ヒグマだけ地面がコンクリートでかわいそう。」
やっぱりきたか…と思います。
ヒグマの場合、糞の量が多く柔らかいため
どうしても床を水洗いする必要がありました。
床を洗った水は園内の浄化槽で処理をするため
土が流れ込むと問題になります。
「一部でも土にとも!」考えたのですが、
ヒグマが掘り起こすのは明らかなのであきらめました。
しかし、皆さんの言うことももっともなので
来年のオープンまでに対策をすることにします。
どんなことをするかは来年見て確かめて下さい。
 
最期が「頭の上にいるヒョウ、
もし誰かが指でも入れたら危ないじゃない。」
ヒョウは木の上で休んだり獲物を待ち伏せしたりします。
僕たちの方がヒョウに見下ろされることで、
ヒョウのイメージが伝わると考えました。
このような見せ方はたぶん日本では当園だけでしょう。
確かに肩車でもすれば手が届くでしょう。
でもあれよりも高くしても、ガラスなどで遮っても、
見つけたときの「ドキッ!」とする感覚はなくなってしまいます。
それよりもヒョウが傘などで突っつかれて、
頭上に来なくなってしまうことの方が心配です。
以上いいわけでした。

環境問題が他人事ではなく現実味を帯びてきた今、
動物園は理屈ではなくて「動物のいる空間の気持ちよさ」
を伝えることが使命だと僕は思います。
どうして自然を守らなければいけないのかは、
見たり聞いたりして考えるのではなく、
まずは感じることから始まるのではないでしょうか。

動物たちが幸せに生活していることが
「気持ちよさ」を伝えるための第一条件でしょう。
トラやヒグマの地面にたくさんの人が感心を持ってくれたこと、
これは何かとても大きな第一歩のような気がします。

トラ
画:ゲンちゃん