2000年8月30日水曜日

キングペンギン(平成12年夏)

ペンギンと聞くとみなさんはどんな世界を想像するのでしょうか?
とても寒い氷の世界でしょうか?
ペンギンの仲間は南半球だけに生息し、18種類の仲間がいます。
この中で南極大陸・本当の極地に生息するのは4種類で
その他の多くの種は、
旭川の冬には耐えられないくらい暖かい地域に生息しています。
おなじみのフンボルトペンギンは、
とても旭川の寒さには耐えられないのです。
当園でも二十年ほど前までフンボルトペンギンを飼育していましたが、
暖房の効いた衛生的な越冬施設がなかったため
長生きをさせることが出来ず、飼育を断念していました。

さて、今回の主役のキングペンギンは
南極周辺の亜極地に生息するペンギンです。
今年建築・オープンする「ぺんぎん館」の主役です。
寒さにも強いのですが、
馴れれば東京の夏でも冷房なしで飼育が出来るほど
暑さにも順応出来ます。
まさに旭川にぴったりのペンギンではありませんか!
でも、本当に旭川の冬は大丈夫なの?どんな性質なの?
ということで去年の秋から密かに2羽だけ飼育を開始していました。
病院の一室に冷房をつけ、
感染症にとてもかかりやすい可能性を考えて飼育担当を限定し、
当園にしては厳重な飼育体制をとりました。
雪が降って地面が真っ白に覆われる頃、
雑菌やほこりがなくなり外に出しても大丈夫と判断し、
病院の前に小さな放飼場を作り、雪の中に出してあげました。

当初は、外に出るとブルブルと震え「本当に大丈夫?」と
短い時間だけ外に出すようにしていましたが、心配のしすぎでした。
気温がマイナス10度でも平気でプールに入って泳いでいます。

不思議なことに北海道の動物園で
極地ペンギンやキングペンギンを通年で飼育していたところがないのです。
寒いのは大丈夫だろうとは思うのですがどうしても慎重になってしまいます。
夜間は室内で零度以下にならないようにしています。

今年に入って、狭い場所では運動不足だろうと思い
園内の散歩を始めました。
来園者がいる時間だと大人気です。
よちよちと歩く姿はとてもユーモラスでゼンマイで動いているようです。
「これ本物?」「ぬいぐるみ?」と真顔で聞く人がたくさんいて、
なんだかおかしくなります。
ペンギンはもちろん鳥の仲間ですが、
陸上では鳥のイメージとはかけ離れています。
地球上にはいろんな生き物がいるんだなぁとつくづく思います。
直立で2本足で立ってる所、手(翼)が真下に垂れ下がっていたり、
寝るときは腹這いでアザラシのようになっていたり変な鳥です。

飼育に関しては一安心。でもこの時期が一番危ない時期。
気を引き締めなくっちゃ。

キングペンギン

画:ゲンちゃん

2000年5月10日水曜日

密輸(平成12年春)

今やペットといえば犬や猫だけじゃなくて,
プレーリードックやミーアキャット,
リスザルにホシガメなどの爬虫類,
タランチュラまで売っている時代です。
ライオンだって買えちゃう時代です。
もちろんライオンや大きなニシキヘビなんかは危険動物なので,
それなりの基準を満たした施設でなければ
飼育してはいけないという条例もあります。

でも,時代は飼えるものならば何でもありです。
たとえ飼育が難しくても,長生きさせることがほとんど不可能でも,
危険がなければ「買う人がいれば売ってしまえ」なのです。
ペットショップで名前すら分からずに売っている爬虫類をよく見かけます。
どれだけ多くの命が興味本位の人たちによって失われているのでしょうか。
特に,珍しい爬虫類などはほとんど消耗品のように扱われています。

では,高価で珍しい動物はどこから来るのでしょう?
飼育すら難しいのですから繁殖はもっと難しいはずですよね。
そう,野生のものを捕獲しているのです。

環境破壊によってではなく,
捕獲によって絶滅の危険が生まれているのです。
そこで地球規模で野生動物を保護しようと
国際間での野生動物の取引を規制する
「ワシントン条約」が出来ました。
これは絶滅の危険度によって細かく分類されています。
実は,日本は野生動物の保護の面では,
行政も国民も意識がとても低いので,とても大きなマーケットなのです。

カメの中で一番人気のあるホシガメは
「ワシントン条約」の2表に分類される動物で,
輸出国の許可があれば輸入は自由です。
そして国内での取引も自由です。
でも,野生個体を大量に捕獲して
輸出国の政府が許可を出すわけがありません。
でも輸出国の許可証がなくても,日本の税関さえくぐり抜ければ,
あとはなんの制約もありません。
そこで「密輸」がおこります。
現地で数百円で買って日本でン万円で売れるのです。
見つかっても税関で所有権を放棄すればいいだけです。
これでいいのかなと思います。

税関で摘発され保護された動物は,どうなるのでしょう?
これも変な話,行き先がありません。
もちろん売買は出来ません。
そこで動物園や水族館に緊急保護という形で収容されるのです。
当園でもホシガメ30匹とシロテテナガザル1頭を
この緊急保護個体として飼育しています。

爬虫類は1回で数百匹単位の緊急保護が生じます。
日本中の動物園・水族館が協力しても収容しきれなくなってきています。
本当にお金で買えるものは何でも飼っていいのでしょうか?
ペットショップで売っているホシガメ,
本当に合法的に輸入されてきたものなのでしょうか?
日常の生活の中で知らず知らずのうちに,
想像もしない場所に深刻な影響を及ぼしていることは,
意外と多いのかもしれませんね。

ホシガメ
画:ゲンちゃん

2000年4月20日木曜日

動物園の看板(平成12年4月)

暖かい日が続き,動物園の雪も解け始め,
旭山にも春の気配が漂ってきました。
動物たちも厳しい寒さから解放され,
暖かな日差しを体いっぱい浴びています。
私達も4月29日の開園に向けて準備におわれています。

動物園では皆さんに,ただ動物を見るだけではなく,
動物を通してもっと楽しんでもらえるような工夫を,いろいろこらしています。
その中で,それぞれ動物の前に設置してある看板に注目して下さい。

旭山動物園の看板は,職員が考えて作っています。
手書き看板はもちろん,既製の看板もそうです。
しかし,なかなか看板に,目を留める方は少ないのです・・。
特に,既製の備え付けてある看板は,
見向きもされないことが多いのです。

どうしたら,看板を見てもらえるのか,
見た看板の内容がどうしたら伝わるのか,
これからに向けて,冬期開園中にいろいろと試みることにしてみました。
まず,トラの既製看板を見てもらいたく,
トラのおりに直接手書きの看板
「トラのひみつ,じつはね,トラはね・・かんばんをみてみよう!」
を設置してみました。
すると,今まで通り過ぎるだけだった看板に,
立ち止まり,読む方が7倍にも増えました。

動物園には,多くの動物がいて,
様々な目的で動物を見に来られていると思います。
私達は,動物を見てもらい,
その動物から伝えたいことがたくさんあります。
動物の獣舎の前に,ガイドをする職員が常にいればいいのですが,
なかなかそうはいきません。
私達が,動物を通して皆さんに伝えたい気持ちを,
ぎゅうっと看板にこめてあります。
何か一つでも,その動物のことを発見してもらったり,
知ってもらえれば,とてもうれしいのです。

皆さんが看板に目を向けるきっかけは,
ほんのちょっとしたことなのかもしれません。
そのちょっとを工夫して,もっと楽しく動物を見てもらい,
動物のことを知ってもらえるように考えていきたいと思います。

もう一つ,アザラシのプールに,
手書きの看板と大きめの時計を設置しました。
「アザラシは,いったい何分息を止めていられるのでしょう?」

ぜひ,旭山動物園に来て,はかってみて下さい!!

※このあざらし館の時計はあざらし館建設時に撤去したので,
現在はありません。