2007年10月26日金曜日

共存と調和(平成19年10月)

さすがに北海道は,9月に入り,秋らしく過ごしやすくなりました。
オランウータンの長男,イワトビペンギン,
キングペンギンのヒナも順調に生長しています。
この号が届く頃には,レッサーパンダ,
アライグマの仔もお披露目されているでしょう。
そうそう,ブラッザグェノン,オマキトカゲもお忘れなく。
冬になる前にぜひ会いに来て下さいね。

8月に九州に行ってきました。
数カ所の動物園,水族館を見てきましたが,
高崎山のニホンザルも見てきました。
僕にとっては想像していたものとは違う強いインパクトがありました。
高崎山のニホンザル,今までの僕のイメージは
「日本サル学発祥の地」「でも,所詮餌付けをした不自然なサル」
「所詮,客寄せの観光地」でした。

書きたいことがありすぎて悩むのですが…まず,サルたちのふるまいです。
僕が訪れた時おそらく数百人の観光客がいたのですが,
サルたちはヒトの存在を認めながらも無関心なのです。
目と鼻の先で子ザルたちが戯れ,足の間をすり抜けていきます。
かといって触ることを許すわけではありません。
お互いが,特に客の側が彼らの生活に干渉しないことから作られた
感動的な関係でした。

その関係を作り出すもっとも基本的なことは
「食べ物を与えないこと」
これが高崎山では信じられないくらい自主的に守られているのです。
その場の雰囲気がそうさせるとしか言いようがありません。
「ポケットやバックの中に不用意に手を入れたり,
食べ物を食べる行為はしないで下さい,
特に女性や子供は注意して下さい」。
このような注意書きがあるのと,
解説員の方がたまに注意を喚起するくらいです。
「昔,お客さんがエサを与えた名残で,バックの中に手を入れたのを見て,
サルが中身を奪ったり,威嚇をして奪おうとしたりすることがあります」。
そう言われると「もう,そんなことをしてはいけないね」と
みんながそう思う空間でした。
サルの生活の場にヒトがお邪魔をして彼らの生活を見せてもらっている,
そんな心地よい緊張感,
「お呼ばれをした家に,お邪魔をしている時」とでも言いましょうか…。

動物園で昔,こんなことがありました。
野生のエゾリスが園内で繁殖して,仔リスが園内を走っていました。
虫取り網を持った子供がリスを追い回し,
大人もあっちだ,こっちだと大騒ぎでした。
「どうして…」僕は唖然としました。

「動物園」は自分たちが見に行く場所,自分たちの都合で見る場所,
そんなイメージが強いのでしょう。
動物園は動物と人が「空間を共有する場」でありたいと強く思いました。

※残念ながら,アライグマの仔は市民広報10月号の発行を待つことなく
9月24日死亡しました。
リスを追うこども(ゲンちゃん画伯)

2007年9月26日水曜日

へその緒(平成19年9月)

お盆が過ぎたというのに蒸し暑い日が続きます。
日本やヨーロッパでの猛暑,
北極の氷が予測をはるかに上回るペースで溶けている等々,
将来が不安になるイヤなニュースが続いています。
それにしても氷が溶けた場合の領海権や
海底資源の権利の問題が取りざたされていて,
ヒトという生き物の底なしの貪欲さを見たような気がします。
ホッキョクグマを守ること=温暖化のペースを遅らせる努力よりも
「欲」が勝るような予感がするのは僕だけでしょうか。

そういえば,7月30日12時過ぎオランウータンのリアンが長男を出産しました。
そろそろかなと予測していたのですが,
室内展示場でお客さんの見ている前での出産でした。
「出産」の一報が無線で流れ,飼育係が集まりました。
ただならぬ雰囲気を察したリアンが落ち着きをなくしたので
その日はすぐに寝室に収容しました。
僕たちが駆けつけたのには理由があります。
リアンは長女のモモを出産した時に育児ができませんでした。
飼育担当者の介助で立派な母親になれたのです。
2回目は大丈夫か?一抹の不安を抱えていました。
 
するとリアンは長男をしっかりと抱え,モモをおぶり,
僕たちを見る目は母親の目でした。
モモの時の不安げな様子はみじんもありませんでした。
たくましい母性を見た気がしました。
寝室に収容し,様子を見ていると子の体をなめ,しっかりと胸に抱っこし,
仔は乳首に吸い付いています。
モモは興味津々でリアンの肩口から顔を覗かせ,
そっと弟の体を触ったりしています。
群れを作らないオランウータンは子育てなどすべてを母親から学びます。
モモは立派な母親になれるでしょう。
 
ただひとつ,リアンができなかったことがあります。
臍(へそ)の緒を切ることです。
オランウータンは臍(へそ)の緒が長く,
臍(へそ)の緒が仔の首に巻き付いて
窒息死した事故例が報告されています。
夕方になっても臍(へそ)の緒と胎盤はついたままです。
リアンの気をそらせている間に,
ハサミで臍(へそ)の緒を切ってやりました。
一安心です。
モモが生まれた時も臍(へそ)の緒は飼育係が切りました。
やはり今回も…。
臍(へそ)の緒は勝手に切れるもの,
リアンはそう思ってしまったのかも知れません。
モモが母親になった時も?…
先のことですが少し不安が残りました。
リアンと赤ちゃん(ゲンちゃん画伯)

2007年8月26日日曜日

子育て奮闘記(平成19年8月)

6月に孵化したイワトビペンギンの雛3羽と
キングペンギンの雛1羽も順調に生長しています。
イワトビペンギンの3羽には複雑な事情があります。
イワトビペンギンは通常2つの卵を産みます。
でも育てるのは1羽です。
これは長い年月をかけて備わった習性です。
野生下では1羽を育てるのがギリギリなのでしょう。
ですから1卵はもしもの時のための保険なのです。
ワシタカなどの猛禽類やフクロウなどでも親が運ぶエサの量が少ないと,
先に孵った大きな雛が後に孵った小さな雛を食べてしまうことがあります。

複雑な事情とは,イワトビペンギンのペアーが巣を構えて2卵を生みました。
その隣で相手のいない雌1羽が1卵を生みました。
1羽では抱卵の負担が大きく体調を崩すので巣を取り除きあきらめさせました。
何かのアクシデントで卵が割れたら大変なので
親鳥には偽物の卵(擬卵)を抱かせて本物は孵卵機に入れて暖めます。
なんと3卵とも有精卵でした。
抱卵をあきらめさせた雌の相手は隣のペアーの雄と思われました…。
それはともかく,3卵とも孵化したらどうしよう?
1羽を親に2羽を人工に,が常套手段なのですが,
できるだけ親鳥に関わりを持たせながら育てたい,ということになり
順番に雛を親に預けてローテーションしてみようということになりました。
2日は飼育係、1日は親鳥が面倒を見ることになります。
問題は親子の認識です。

鳥類は一般に卵から孵る前に親子の認識をするといわれています。
孵化が近づくと卵の中から雛の鳴き声が聞こえます。
お互いに声で親子の認識をするのです。
ところがペンギンは観察するに巣の中にあるもの,
いるものには寛容なのではないかと思われることがあります。
キングペンギンに到っては
(キングペンギンは足の上で卵を抱き,雛を育てるので巣は作りませんが…)
他種の雛でも奪い取って自分で育てようとすることさえあります。

てな訳で,雛のすり替えを決行することにしました。
結果は予想どおりでした。雛を替えてもちゃんと面倒を見ます。
3羽を別の個体と認識しているのか識別していないのかは分かりませんが…。

さらなるハードルは雛が巣から出てからです。
野性ではある程度大きくなった雛は雛だけで集まり
クレイシと呼ばれる幼稚園を作ります。
この時期は完全な親子の認識があって,
親は自分の子以外にエサを与えることはありません。
はて3羽とも我が子と認識するのか,1羽だけを認識するのか?
どうなっても飼育係のこともエサをくれる人と認識しているので,
親鳥と共同で子育てができます。

さて、もくろみ通りに事が運んでいましたが,雛が巣から出る頃,
暑さと,フンボルトペンギンが雛を攻撃したりで,残念ながら3羽の雛は
室内での人工育雛としました。
現在は雛の羽毛から成鳥の羽根に生え替わる時期を迎えています。
飼育係がついて泳ぎの練習や,群れの仲間に入る練習をしています。
イワトビペンギン3兄弟(ゲンちゃん画伯)