2010年8月30日月曜日

世界自然遺産知床 (平成22年8月)

ゲンちゃん日記の更新が大変遅くなり申し訳ありません。

7月17日知床が世界自然遺産登録5周年を迎えました。
ウトロでの記念式典で講演をする機会をいただき、
知床に行って来ました。

思い返せばゴマフアザラシの施設を建築したのが6年前、
5年前は200万人をこえる想像もしなかった来園者が訪れた年でした。
北海道を代表する冬の使者ゴマフアザラシ。
当時、他の園館の人に次はゴマフアザラシの施設を考えているんだ、
と言うとなんでアザラシ?と不思議な顔をされたのを思い出します。
あざらし館は日本の動物をパンダやコアラ、
ラッコと同じ主役として扱った日本で最初の施設でした。

知床も驚く程たくさんの観光客が押し寄せるようになり、
現地の人たちにはとまどいの方が大きかったことと思います。
収容能力を超える観光客が訪れる中で
何を伝えられているんだろうという不安、
観光客数が落ちると、地域経済の視点からの議論…
知床と旭山には驚く程の共通点があります。

知床に滞在してあえて観光客と同じ目線で観光船に乗ったり、
試験的に行っている知床五湖を
ガイド付きで回るツアーに参加するなどしました。

知床岬までの観光船からは、海岸縁に親子のヒグマが2組、
単独行動のヒグマを2頭見ました。
海岸に打ち上げられた魚や海藻などを探していました。
ヒグマのそばの草地にはエゾシカの群れ、
海岸の流木の上には巣立ちをした若鳥を連れたオジロワシ、
海面にはトドやイルカの死体が漂流し、
崖にはオオセグトカモメなどの繁殖地がありました。

夜には海に近い道路沿いで海の魚を狙ってシマフクロウが現れました。
海面にはサケ漁のための無数のオレンジ色のウキが浮いていました。
海岸を接点として陸の豊かさと海の豊かさが一体となり、
そこに人の生活もとけ込んで見えました。
やはり知床は圧倒的な包容力のある自然が残る大地でした。

その一方で、ヒトと動物との距離の異常な近さ、
異様な振る舞い、異常な景色にも圧倒されました。
ガイドについてもらった五湖ツアーでは、20メートルもないくらいの距離に
ヒグマの親子が現れました。
エゾシカは触れる距離まで近づくことができます。
道路沿いのシカは車が通りすぎても、
耳すら動かさずに無警戒に餌を食べ続けています。
高さ50センチくらいに刈り込まれたようなクマイザサの草原、
管理された公園のようにヤブこぎをしなくても川まで行ける河川敷、
ハンゴウンソウ、ワラビ、外来種のアメリカオニアザミ等だけが
不気味に繁茂していました。
数メートル程度の若木がないスカスカの森が
いっそう不気味さを引き立てていました。
すべてエゾシカの食害の結果です。

世界自然遺産知床はどのような未来のスケッチを描き目指すのか?
伝えるべきは表面上の豊かな自然ではないのだと思いました。
見てきた知床の風景(ゲンちゃん画伯)

2010年7月30日金曜日

うれしいこと (平成22年7月)

さて、うれしいことが続いています。
ぺんぎん館では5月31日にキングペンギンのヒナが、
6月5日にはイワトビペンギンのヒナが孵化し順調に育っています。
ととりの村ではマガモ、ハクガンなどガンカモ類の雛たちが相次いで孵化し
水面はたくさんヒナたちが泳ぎ回りとてもにぎやかです。

昨年、新しくなったテナガザル舎で、6月2日にシロテテナガザルが出産しました。
旭山のテナガザルは昨年夏までは89年生まれの母(シラコ)と
02年生まれ(サスケ)と04年生まれ(コタロー)のオスの子2頭でした。
雄親は05年に死亡していたからです。
昨年の10月に一人前に育ったサスケを縁あって他の動物園のオス(テルテル)と
交換することができました。
それぞれが新たなペアーを形成するための交換でした。

テルテルは01年生まれでシラコとはまさに親子程年が離れていること、
テナガザルは一夫一婦制の家族単位で生活をすることから、
もうすぐ一人前になるコタローと闘争などが起きないか心配はありました。
テルテルは気性が穏やかで、心配していたことがバカらしく思える程
シラコ、コタローとの同居もトラブルなくおこなえました。

テナガザルの妊娠期間は7ヶ月程度なので、

昨年11月の早い時期に交尾をしたことになります。
旭山に来て一ヶ月も経たないということになります。
なんとまぁ早いこと…

テナガザルの交尾はお互いが両腕でぶら下がった状態で、
振り子のようにブラブラと揺れながら、

腰が触れ合ったかなというくらい短時間におこなわれます。
交尾の確認は至難の業なので、明確な交尾は確認していませんでした。 
 
今年の5月頃からシラコの腹部が大きくなってきて、もしやとの思いはありました。
生まれた子は、顔は肌色で体毛が薄く、まるで手足の長いヒトの子のようです。
シラコは6年ぶりの出産でしたが

5頭の子を立派に育て上げただけあって落ち着いたものでした。
コタローにとっては始めての弟妹で、興味津々です。

新しい施設に新たな命の誕生はとても嬉しいことでした。
さらに6月14日キョンも出産しました。
親があの小ささなので、子はまさに手乗りキョンになりそうな程小さい体でした。
キョンの展示はしばらく先になりそうです
(この手紙の頃にはもしかしたらお披露目しているかも知れませんが…)。


※キョンは室内放飼場で展示を始めています。

みなさんも新たな命の成長を自分の目で優しく見守って下さいね。
テナガザルの親子(ゲンちゃん画伯)

2010年6月30日水曜日

旭山の近況報告 (平成22年6月)

天候不順が続き桜の開花も遅れましたね。
そして今年は宮崎での口蹄疫の発生。
北海道でも防疫対策がとられ始め、

農家の方は不安な日々を過ごされていると思います。
宮崎牛ブランドの危機以前に、日本の食の保証の観点から
危機管理をしなければならないのではないかと思います。
国の対応が毅然としていないと感じるのは僕だけでしょうか。

当園は、北海道や近郊の酪農家の対策と歩調を合わせ、
来園者の踏み込み消毒、口蹄疫に感受性のある動物に
来園者が触ることができないようにする対策を実施しました。
万が一動物園での発生があると

あらゆる分野の大きな悪影響が及んでしまいます。
この手紙が届く頃には事態が沈静化していることを祈るばかりです。

夏期開園からあっという間の一ヶ月でしたが、
もしかしたらと密かに期待していたオオカミの出産はありませんでしたね。
来年こそ期待したいです。
今は別飼育としているケンの姉妹メリーは新たな飼育先が見つかり、
引っ越しの日取りなど現在調整中です。
新天地ではすこし年上のオスとペアーになる予定です。
メリーはとても気性が強いのでちょっと心配ですが、
とてもオオカミらしい個体なので、

どこに出しても恥ずかしくない自信はあります。

無事にオープンした「もうきん舎」。
神経質だったオジロワシも急速に来園者を見慣れて
来園者の前でも悠然と構えるようになりました。
さらに池に放したニジマスを捕まえ食べるようにもなりました。
着実に野生が蘇ってきています。
傷病鳥として保護され

野生復帰が不可能と判断し飼育を継続してきた個体たちです。
こんなにも生き生きとした表情を見せるようになるのかと感無量です。

円山から来たホッキョクグマのサツキはイワンと交尾をしました。
発情が一度も確認されていなかったサツキに発情が来たのです。
イワンの執着心が弱かったのが気がかりですが交尾は確認できました。
少なくとも出産の可能性は生まれました。
ホッキョクグマの場合、出産後に育児をするかどうかが勝負になります。
出産、育児をするための環境をしっかりと整備しなければいけません。 

育児をさせるのではなく育児をしたくなる環境を考えなければいけません。
今年はルルとサツキのダブル出産に備えなければいけないのですが、
まさかこんなことになるとはうれしくて夢のある誤算でした。
ただイワンはまだメスを妊娠させた実績はないので

過度の期待は抱かないようにしつつ…でも期待する微妙な気持ちです。

※この日記は5月下旬に書いたものです。
口蹄疫に関しては現在も防疫対策を継続しています。
ホッキョクグマの親子(ゲンちゃん画伯)