2010年12月31日金曜日

動物園の未来 (平成22年12月)

いよいよ年の瀬です。
毎年あっという間の一年だったなと思います。
でも今年はみんながちょっとしたことで一喜一憂する日々が続いています。
そうホッキョクグマです。

現在ルルとサツキが出産の可能性があるために産室に収容しています。
ルルもサツキも体重が増え出産、育児を行う体力はついています。
産室内には、カメラを設置して
24時間態勢で監視できるようにしているのですが、
ほんのちょっとした行動の変化や、
乳房が張ってきたように見える映像が見えたりすると、
ドキドキものです。

過去にもホッキョクグマの出産(子は数日以内に死亡)は
経験していたのですが、
監視システムはなく、ひたすら祈るだけでした。
この映像記録は貴重な財産になります。 

昨年、北海道の4園でホッキョクグマの繁殖のために
大規模な個体の移動を行いました。
画期的なことでした。
その結果順調に繁殖している円山動物園のメスに加え、
新たに釧路の個体と当園の来たサツキに繁殖の可能性が生まれました。 

日本国内を見渡すと、繁殖成功例は数える程しかなく、
現在23園館で45頭が飼育されていますが、
このまま繁殖しないペアーや単独での飼育を漫然と続けると、
日本の動物園でホッキョクグマを見ることが
できなくなってしまう可能性が高いのです。 

外国から買えばいいじゃない?そんな時代ではないのです。
一方で新たなホッキョクグマ舎の建築が続いています。
自分の園のことだけを考えていていればいい時代ではないのです。 
ホッキョクグマは近年の気候変動の中、
近い将来北極の氷が極端に減少する可能性があり、
氷がなくなると命を繋げないホッキョクグマは
絶滅危惧種に指定されました。
エコのマスコットのようにホッキョクグマがもてはやされ、
ブーム的な人気動物になっています。

僕は本質的な問題や視点からそれた、
ある種客寄せパ○ダ的なスター動物のように
扱われることに危惧を覚えるのですが、飼育動物がいなくなれば、
動物園はあらゆる意味で伝える手段を失います。 

飼育下でホッキョクグマの繁殖に成功したからといって、
野生での絶滅が防げるわけではありません。
飼育下で繁殖させることの意味、動物を飼育、展示し続けることの意義を
しっかりと検討することも必要なことです。 

この手紙が届く頃には…すぐに結果を求めるためではなく
将来につながる北海道でのこの取り組みが、
 全国の園館に広がれば素晴らしいことです。
イワンの心配(ゲンちゃん画伯)

2010年11月30日火曜日

「恩返し」第一弾 partⅡ (平成22年11月)

今年は国際的にも生物多様性年という位置付け、
名古屋で生物多様性条約締約国会議COP10が開催されています。
ここでいう生物多様性とは、環境の多様性、種の多様性、

遺伝子の多様性のことをいうのですが、
取っ付きにくくわかりにくいですね。

名古屋ではいきもの会議と呼んでいますが、

これも漠然としていますね。
本来であれば地球規模でヒトも含めてたくさんの生き物が
共に暮らし続ける未来のための道を探ることが
大きな目的なはずなのですが、
残念ながら盛り上がりに欠けています。

大きな原因は、生物を遺伝資源と見て、

国同士の利権の争いの様相を呈してきたからでしょう。
どこまで行っても自分たちが得たものは譲らない、

引き返さないのであれば
未来は厳しいのかも知れません。
結局すべてが経済最優先なんですね。

旭山動物園が取り組んでいる恩返しプロジェクトは

経済の仕組みとは離れた立ち位置から、
共に生きる未来を見ようというのがコンセプトです。
私たちの日常の暮らしが本来そこに暮らす生き物たちの

豊かさを奪い続けていることが、生物多様性を損なう原因です。

ですから消費者が主体となり、ありがとうの気持ちをかたちにして、
そこで暮らす動物のためになる取り組みをしたいと考えたのです。
第一弾のボルネオへの恩返しは、

マレーシア国サバ州にボルネオゾウを中心に
ボルネオオランウータンなどの野生生物の

レスキューセンター設立を目標にしています。

寄附型の自動販売機の売り上げなどを通して

たくさんのお金が集まりました。
成果としてゾウレスキュー用の檻をつくり現地に持っていきました。

現地ではアブラヤシの畑に出るゾウを救出し

ジャングルに戻す活動をしているのですが、
実用に耐えるゾウの檻が確保できない現状にありました。
現地ではこの檻を使いゾウの救出が成功しました。

これを機にプロジェクトを加速していきたいと思います。
この成果はCOP10のシンポジウムの場で発表し、

たくさんの方の関心を集めました。
日常生活も経済といえば経済なのですが、
現地への返し方が経済の仕組みに巻き込まれていないことが、
持続可能な生物多様性の保全に貢献し続けると思います。

保全活動には必ずお金が必要なのですが、
お金を現地で生み出そうとすると観光などが切り口となるのですが、
観光は必ずしもいいことばかりではありませんね。

もうすぐ冬季開園が始まります。
今年はどんな冬になるのでしょう?
稚内で検出された高病原性鳥インフルエンザも心配です。
充実した年の瀬を迎えたいなと願っています。 
ゾウと檻(ゲンちゃん画伯)

2010年10月31日日曜日

「恩返し」第一弾 (平成22年10月)

例年にない残暑も嘘のように終わり、急に気温も下がり秋になりました。
皆さんは体調を崩されたりしていないでしょうか?

僕たちは残暑の厳しい9月2日から10日までボルネオに行っていました。
旭山動物園が取り組む「恩返しプロジェクト~ボルネオへの恩返し~」の
成果第一弾を届けるために。

このプロジェクトの最終目標はマレーシアサバ州に
ボルネオゾウを中心とした野生生物レスキューセンターを

設立し運営することです。
具体化するために寄附型の自動販売機を開発し
市内では園内を始め約60カ所、

道内、本州などでも設置箇所が広がっています。
たくさんの企業の方の協賛に本当に感謝しています。
この自動販売機からまとまった金額の募金が集まりました。

昨年ボルネオでアブラヤシのプランテーションに入り込んだゾウを捕獲し
ジャングルに返す作業に参加しました。
その際に使うゾウの移動用の檻が、

決して頑丈なものとは言えませんでした。
ゾウの捕獲作業に時間がかかり夜になってしまったため、

翌日にジャングルに返したのですが、
檻が壊れゾウにとってもヒトにとっても危険な状態での作業になりました。
現場では、安全で頑丈な檻が必要だ、

しかし予算的な問題や、田舎での材料調達、
溶接技術などの問題があって

現実は非常に厳しい状況なんだと話していました。

成果第一弾は、ゾウレスキュー用の檻にしようと計画をして、

設計をしました。
檻くらい簡単と思われるかも知れませんが、

ただ運ぶための頑丈な檻というわけにはいきません。

まず重量です。現地ではトラックに着いたユニックで作業をするのですが
ユニックで吊れるのは約3トンです。
檻の重量が軽い程、より大きなゾウのレスキューも可能になります。
檻の重量は1トンを目安にしました。
ゾウに破壊されない安全な強度を保つことが課題です。

次にメンテナンスです。
現地では溶接技術などが確保されていない場合が多いので、
檻はすべてボルトでの組み立て式とし、

パーツごとの交換でメンテナンスできることが課題です。

そしてもう一つ一週間程度の飼育が可能な檻にすることです。
治療が必要なゾウを想定しました。
檻越しに治療行為ができるように、

安全と強度を確保し隙間を空けることでした。
地元田島工業さんと協議を重ね檻が完成しました。

サバ州の野生生物局直轄のロカウィ動物園で檻の贈呈式を行い、
自分たちは立ち会えなかったのですが、

この檻でのゾウのレスキューが成功しました。
現在ボルネオで使用できる唯一の檻です。
サバ州では大きな話題となり

新聞は各紙一面トップ記事でした。
動物園にできること、動物園だからできること、

これからも具体化し続けていきたいと思います。
ゾウと檻(ゲンちゃん画伯)