2011年12月31日土曜日

原点に立ち返る (平成23年12月)

早いものですね。
動物園も初冠雪を迎えました。
冬は冬らしくあって欲しいですね。

年末を迎え、来年に向けての施設の設計が大詰めを迎えています。
現在のキリンやカバがいる総合動物舎を建て替える大型草食獣館、
職員手作りの檻が並ぶ北海道産動物コーナー、
やはり老朽化が激しいため立て替えを計画しています。

現在の総合動物舎は昭和42年のオープンからある最後の獣舎です。
寝室は飼育頭数分つまりキリン、カバ共に2部屋づつしかありません。
繁殖をしても子を長く飼育することはできないために、
他の動物園に出すしかありませんでした。
次の世代を継ぐ子を飼育できなかったのです。

新しくするのであれば最低3部屋は必要です。
なんせそれだけでも建物が大きくなります。
つまり予算とのにらめっこです。
この財政難の中でのギリギリを目指し
それでも過去最高額の予算が必要になる焦り、
さらに旧遊園地跡地での建築を予定しているので、
冬期間はペンギンの散歩を待つ来園者のための
暖を取れる休憩所も必要だと考えていました。

いつの間にか、さまざまな要素のすべてを
どう納めるかを考えるようになっていました。
何かしっくりこない、もやもやとした思いが募っていました。
旭山らしさって何だ?原点に立ち返って図面とにらめっこしました。
思いっきりの良さ、常識をベースにしない、だったとふと我に返りました。
たくさんの方にご迷惑をかけながら設計は進んでいます。
振り返ることなく前を向いて進み新たな年を迎えたいと思います。

 
観光客がたくさん訪れるようになり、
地元の方の足が遠ざかり数年が経ちます。
地元の方もお客さんが来たから連れて行く場所になり、
昔のように自分たちのために行く機会が
少なくなったのではないでしょうか?

冬期閉園をしていた頃、市民からおたくら冬は失業保険もらってるのかい?
と心配されました。
今では冬こそ旭山になりました。

旭川に根を下ろした動物園でありたい。ずっとそう思っています。
仲間を誘って、ぜひ自分たちのために動物園に足を運んでいただけたらと
今回の企画を実現しました。

日ごろの感謝を込めて、旭山動物園からのささやかなお年玉です。
カバの潜り(ゲン画伯)

2011年11月30日水曜日

人のわがまま (平成23年11月)

今年から、閉園期間が変わりました。
この手紙がみなさまに届く頃はまだ閉園期間中ですね。
10月の第3日曜日までの夏期開園期間を11月3日までとし、
まだ秋の気配が残り、足を運びやすい時期まで開園期間を伸ばしました。

その代わりに園路や獣舎の補修、越冬作業のための休園期間を
11月4日から17日までとしました。
18日から冬季開園が始まりますのでよろしくお願いします。

10月も中旬に入り、ハクチョウ類などの水鳥(野鳥)が
渡ってくる季節を迎えました。
昨シーズンは高病原性鳥インフルエンザが
日本各地の養鶏場などで発生し、野鳥での発生報告も相次ぎました。

疫学的な調査から感染ルートとして
中国や韓国からの渡り鳥が持ち込むルートと
シベリアなどの北方から北海道を経由する渡り鳥が
持ち込むルートがある可能性が非常に強いことが判明しました。

今シーズンはウイルスが持ち込まれることを前提
にさまざまな議論が行われ、対策が講じられつつあります。
野鳥にとって幸いだったのは、感染力や死亡率が低く、
過去に諸外国で見られたような
群れごと全滅するような事態になっていないことですが、
裏を返すと感染したまま移動し
糞中にウイルスを排泄する個体が存在することになり、
各地での伝搬が止まらないことになります。

人の側が一番恐れているのはニワトリへの感染、人への感染ですが、
根本的な原因を招いたのは、
人の側が自分たちにとっていいところだけをつまみ食いするような
ハクチョウ類への関わり方をし続けてきたことだったのではないでしょうか。
結果ヒトとハクチョウの距離が不自然な近さと密度になってしまいました。

全国的な一方的な餌付けの自粛は
ハクチョウたちにとっては死活問題です。
今までとは違うハクチョウたちの行動を招くでしょう。
それがまた人にとっては不都合、
さらには恐ろしいになる可能性があります。
でも翻弄されているのは
常に動物の側であることは忘れてはならないでしょう。

都合がいいと言えば、最近アザラシのあらちゃんが話題になっています。
またもお決まりの特別住民票です。
荒川に迷い込んだアザラシの側に立ち興味、関心を持つと
まったく違う関わり方が生まれるはずです。

これからのさまざまな生き物との共存を考える時、
人の側の興味、価値観に引き込んで相手を見る関わるスタンスから
離れないといけない時期なのではないかと切に思ってしまいます。
なんでここに!?(ゲン画伯)

2011年10月31日月曜日

エゾシカの未来 (平成23年10月)

「食欲の秋」ということで
旭川食べマルシェ(2011年9月17日~19日開催)も無事に終わりました。
2回目の今回は旭山動物園も出店しました。

エッと思われる方もいらっしゃるでしょうが、
エゾシカ関連の商品を売りました。
実はエゾシカチップスとエゾシカ石けんを
旭山動物園公式グッズとして売り出したのです。
今回は間に合わなかったのですが
エゾシカセーム皮とエゾシカセーム皮を使ったぬいぐるみも
発売予定です。

エゾシカは在来種にもかかわらず北海道の根幹を揺るがす程数が増え、
全道で64万頭が生息していると言われています。
北海道はその頭数コントロールのために
今年は14万頭の駆除目標を立てています。
狩猟の解禁日を早めたり自治体も独自に「懸賞金」のような形でお金を拠出し
駆除を進めています。

駆除されたエゾシカはどうなっているのか?
昨年はその9割近くがゴミとして処分されました。
北海道の大地の豊かさがエゾシカという命になり
大量のゴミとして処分されていく。
ヒトの都合でエゾシカが住みやすい環境をつくり
その中でエゾシカはただひたむきに生きようとしているだけです。

その結果が今です。
自然のバランスを崩した責任は僕たちヒトにあります。
自然そのものを破壊してしまう程に増えた
エゾシカをコントロールできるのもヒトだけです。
自然のバランスを整える過程で失われる命に対して利用すること、
いただくことが奪った命に報いることなのではないでしょうか。 

家畜の話ですが北海道では開拓時代にヒツジの飼育を始めました。
ところがヒツジを利用する文化がなく、ヒツジの飼育は一時断念されました。
その後ジンギスカンという形で北海道を代表する食文化に育ちました。
エゾシカも僕たちの日常の暮らしの中のおいしい味覚に育て
食文化として定着させることが
エゾシカとの共存の未来を探るカギになると思います。
いつまでも大量の税金を投入しゴミとして処理を続けることは
あまりにも悲しいことに思えます。

エゾシカほど、その姿や暮らし方、美しさが
北海道の四季の美しさ豊かさと重なる動物は
そうはいないと思います。
とても素晴らしく逞しい動物です。

エゾシカを尊く思うからこそ
自慢できるくらいにおいしいエゾシカをたくさんの方に知って欲しい。
大地から大切な恵みとしてみる視点が育って欲しいと願っています。
ヒツジとエゾシカ(ゲン画伯)