2012年3月31日土曜日

営み (平成24年3月)

今年は寒さもさることながら、積雪が多いですよね?
降雪量と言うことではなく集中的にドガッときて
どんどん積もるからなのでしょうか?
ふと見上げると最近整備したもうきん舎、
たんちょう舎の天井の網に想定外の雪が積もり
冷や汗もんのこの頃です。
自然の力には本当に脱帽です。

それでもキングペンギンの換羽も始まり、
春の足音が聞こえてきます。
空振り続きのレッサーパンダ、
3頭の子もたくましく成長した
シンリンオオカミのケンとマースにも恋の季節が訪れました。
ホッキョクグマはどうなるでしょう?
この号がでる頃にはシマフクロウ、ユキヒョウ
(※まだ来園していません。近々来園予定です)
新たに仲間入りしているかも知れません。

冬が繁殖期と言えばエゾシカ、
長らく揺るぎない地位を確保していた高齢の治夫が
その地位をまだ3才のマカロニに譲り渡しました。
エゾシカは秋になると立派な角を持ちますが、
その目的はオス同士の闘いのためです。
強いオスがメスを確保できるのです。

治夫は18才、いつ死んでも大往生という年齢です。
角が変形していわゆる4尖(せん)角ではなくなりました。
角をつき合わせた時にとても不利な形になってしまいました。
対してマカロニは3才にして
とても立派な体格4尖(せん)角になりました。
精神的にはまだ大人ではないのですが、
治夫との軽い角の突き合わせから
アレッ勝てるかもと感じたのかも知れません。

飼育下ではオスを複数頭飼育する場合は角を切ってしまい、
角による刺傷を防止することがあります。
当園でも前の放飼場では事故が起こるため
角の先端にゴムホースを着けたり、
切ってしまったりと苦労しました。
今の施設ではそのような心配は今のところ必要ありません。
狭いながらも立体的な構造なので、
お互いに姿が見えなくなる場所があり、
優位な個体が劣位の個体をとことん追い回すことがありません。
治夫もちゃんと居場所があってメスがそばにいたりもします。
ただマカロニは血気盛んで
飼育係にもスキがあれば挑んでくるようになりました。
とても危険です。
しっかりと分をわきまえさせないといけない時が来たのだなと思います。

一見何の変化もないように見える動物たちにも
さまざまな営みが繰り広げられています。
そんな変化をしっかりと感じ受け止めながら
毎日を過ごしていきたいと感じます。
マカロニ(左)と治夫(右)(ゲン画伯)

2012年2月29日水曜日

ゴンありがとう (平成24年2月)

今年は雪と寒さとの闘いの日々が続きますね。
高速道路もJRも当たり前に動いている日の方が珍しいくらいです。
このままでは札幌圏と旭川圏は
雪の壁で分断されてしまうのではないかと心配になりますね。
動物園でも団体バスが閉園ギリギリに入園してきて、
せめてペンギンの散歩だけでも見たい!
と言うことが間々あります。
まぁ旭川も札幌圏に頼らずに
頑張りなさいと言う暗示なのかも知れません…。

積雪が一メートルを超える期間が長く続くと
エゾシカの子は命を落とすと言われていますが、
山の中で必死に生きているエゾシカのことを
ふと想像する時があります。
複雑な思いになりますね。

昨年の暮れ27日にカバのゴンが急死しました。
旭山動物園オープンの昭和42年7月から
ずっと旭山動物園を見続けていました。
変な話ですが人間で開園からずっと
旭山に関わり続けている人はいません。
ゴンの目にはどのような景色が見えていたのでしょう?
残されたザブコとの間に7頭の子が成育しました。
自分が旭山に来てからは2頭の子を他園に送り出しました。

カバは繁殖力が強くオスとメスを同居させておくと
次から次に子供ができてしまうため
通常は別居飼育をし、
もらい手などの目途をつけて計画的に繁殖させるのが一般的です。
旭山の施設は成獣1頭を収容するのがやっとの寝室が
2つしかないので、跡継ぎを残すこともできませんでした。

新しい施設では3頭までは飼育できるようにしなければと
設計を進めています。
僕が就職した時に当時2才の子供のカバがザブコと同居していました。
とてもやんちゃで冬でもラッセル車のように
鼻から白い息を吹き上げながら雪中を転げ回っていました。

でもなぜかその子カバには名前がありませんでした。
そう望まれた子ではなかったのです。
繁殖制限をしていたはずなのにできちゃったのでした。
すぐにでももらい手を探してと決まっていたから
名前は付けずにいたらしいのですが、
結局7才まで母親と同居でした。
大きくなると母親の負担が大きくザブコはやつれてしまいました。
当時は水中でしか交尾は成立しないが常識で、
プールに水のない冬,寝室の扉の修理のために
一日だけ同居させました。
なんとたった一日、厳冬の雪の中愛は実を結んでしまったのでした。

日本で飼育しているカバの中で
確実に3本指に入る大きさと言われたゴン、
愛は常識をも覆すことを証明したゴン、
晩年はザブコにウザがられ同居できなかったゴン、
でも一日に数回はとなりの寝室のザブコと
ブブブブと挨拶は欠かさなかったゴン、
27日の夜ブブブブと鳴き続けていたザブコ。
たくさんの子供たち今は大人になったたくさんの人の心の中で
ゴンは今も生き続けているはずです。
ゴントサブコ(ゲン画伯)

2012年1月31日火曜日

今年の思い (平成24年1月)

新しい年を迎えました。
今シーズンは久しぶりに雪と寒さが早くやってきました。
雪かきでうんざりな人も多いでしょうが、
北海道らしい冬が久しぶりに戻ってきた気もします。
この手紙が届く頃、
産室の中のホッキョクグマは新しい命を育んでいるでしょうか?
老朽化した開園からある総合動物舎の
建て替えの予算の目途はついているでしょうか?
前回の手紙に添付した無料招待券は
たくさん利用されているでしょうか?…

今年は、たくさんの方から支援をいただいている
ボルネオへの恩返しプロジェクトを
現地で具体化すべく、作業を急ピッチで進めています。
危機的な状況にあるボルネオゾウの救護施設の第一弾を
ボルネオ島のサバ州にある保護区(LOT8)に建築する予定です。

外国で施設を建築することは、
想像以上にさまざまな困難が伴います。
設計図面を渡して、見積書を取って、
といった日本のやり方はまったく通用しません。
日本で始めて、世界で始めての施設を具体化してきた旭山ですが、
さらにハードルは高いと感じています。
一つ一つ障壁を乗り越えて計画を練っています。

第一弾は予算の制約もありますが、
とにかく具体化すること、を目標に
がむしゃらにいくしかありません。
昨年に送ったボルネオゾウ救助用の移動檻は、
大活躍をしていて、現在アブラヤシの畑に現れたボルネオゾウを捕獲し
ジャングルに返すために輸送できる檻はこの檻一つだけです。

人と野生動物の共存のためにできること、
一刻も早く具体化し続けなければいけません。
アブラヤシから採れるパーム油の需要は年々高まる一方です。
地球規模での人口の増加は、
必然的に植物油脂の必要量の増加につながり、
その増加分を満たす主役はパーム油だと言われています。
つまりジャングルを切り開きアブラヤシの畑の拡大が続くわけです。
野生動物たちの豊かさが人のためだけの豊かさに化け続けるのです。

現実は厳しいのですが、熱帯雨林は地球の命の根元です。
新たな種の誕生、意識することすらない空気中の酸素…
その根元のあらゆる命を絶ってしまうことは
地球そのものが息絶えることを意味するように思えます。 

まずは、自分たちが奪い続けていることで
日常の豊かさや便利さが成り立っていることに気づくこと、
救護センターはそんな願いを込めて建設します。
今年中に具体化すること!これが今年の自分に課した第一優先の夢です。
ゾウとヒト(ゲン画伯)