2009年5月30日土曜日

初めまして… (平成21年5月)

初めまして。
遅くなりましたが園長の坂東です。
自分は全く人格者でもないし,

人に尊敬されるような人間ではありませんが,
動物たちのことを思う気持ちは,

そうは負けないと思っています。
旭山動物園には700からの動物たちがいます。
僕は彼らのための園長であり,
彼らの尊厳をたくさんのヒトに分かってもらうのが

仕事なのだと思うようにしました。
背伸びをせずに等身大で,

今までどおりコツコツやっていこうと思いますので,
よろしくお願いします。

さて,現在09年夏期開園の準備中です。
動物園の人事的にはいろんなことがあり,

てんてこ舞い状態ですが,
動物たちには特別な年と言うことはなく,

淡々とめぐってくる春なのです。
雪解けも早く,共同作業も順調です。
ただし,09年度のオープン4月29日には,

エゾシカの森がオープンします。
ダブルでのオープンなので大変です。
新施設の点検や整備に時間を要していて

エゾシカの引っ越しもまだ(4月19日現在)なので
けっこう焦りモードに入っています。

振り返ってみると新施設は

夏や秋のオープンが多かったなと思います。
さらに今秋の完成に向けて新テナガザル舎の建築も始まりました。
さらにホッキョクギツネ舎の工事も始まりました。
さらに…てな状態です。
雨もなく穏やかな天候なので関わっている業者の方の工程も
ハードな中でも順調に消化できているのが唯一の救いでしょうか。

エゾシカの森はオオカミの森と一体で一つのコンセプトの完成です。
新たな旭山のスタートだと意気込んでいます。
飼育動物種リストだけを見たら,

何の特徴もない平凡な地方の中規模動物園が
日本を代表する動物園になれたのは,

自分の自慢をしない動物たちと,
こんな動物じゃつまらないと思ってしまった来園者の間に,
「みんな素晴らしいんだ,凄いんだ!」と
動物たちのすばらしさを知っている飼育係が仲立ちの役目をし,
いわば架け橋となって,現在に至りました。

来園者数も全国一,二位を争うまでになりました。
「普通」の動物たちでも素晴らしいと共感してくれる

人の輪が広がった結果でもあります。

でも,これは私たちにとっては

ある意味ずっと昔から当たり前のことだったのです。
そう考えるとこれからがスタートです。
飼育動物と彼らの本来の生息地,故郷を結ぶ架け橋として,

動物園ができることは何か?
そのことを強く意識をしての取り組みを具体化していきたいと思います。 

その第一弾がオオカミ・エゾシカの森です。
どちらも北海道が故郷です。
オオカミは私たちが絶滅させてしまった種で

エゾシカは有害動物扱いです。
私たち人の暮らし,オオカミ,エゾシカの暮らし,
その関わり方の原点を見つめ直す施設にしたいとの

コンセプトを持っています。 

「行動展示」が旭山の代名詞みたいになっていますが,

行動を含む営み展示だと思っています。
見続けることで生身の命として心に残るのだと思います。
共生の原点です。
皆さん今年は最低4回動物園に足を運んでみて下さい。
我々が伝えたいこと、

なにより動物たちからのメッセージが伝わると思います。
自画像(ゲンチャン画伯)

2009年4月30日木曜日

悪者は誰? (平成21年4月)

今年も例年になく早い雪解けでした。
4月の中旬まで雪割りに汗を流していたのがうそのようです。
流氷も早々と沖に姿を消し、ゴマフアザラシたちが心配です。
流氷の上で生まれたゴマフアザラシの赤ちゃんは、約3週間で離乳します。
離乳した子はたどたどしい泳ぎで、
自力で食べ物を確保しなければいけません。
水深の深い沖合いの海では食べ物を採ることが出来ません。
 
4月は越冬をしに日本に渡ってきていた渡り鳥が
繁殖のために北に向かう季節です。
オオハクチョウも群れでシベリアを目指します。
北海道では昨年5月に
野付半島とサロマ湖で死亡していたオオハクチョウ各1羽から
高病原性鳥インフルエンザの感染が証明されました。
その後の水鳥類の糞便を中心にした疫学調査からは、
ウイルスはみつからず、オオハクチョウを含め鳥類の大量死や、
罹患個体(病気にかかっている個体)も見つかりませんでした。
オオハクチョウからの高病原性鳥インフルエンザの発生を受け、
昨年の秋から水鳥類への餌付け自粛が広がりました。
それに伴いハクチョウたちの行動にも当然変化が現れ始めました。
人とのかかわりが
より自然な関係に向かう出発点となればいいと考えています。

ところが、3月7日付けの新聞に
「タンチョウ、鳥インフル感染の危機 阿寒 餌場にオオハクチョウ」
という記事が載っていました。

高病原性鳥インフルエンザと鳥インフルエンザを区別していないという
根本的な誤りもあるのですが、
タンチョウの餌場にオオハクチョウが現れるようになったので、
追い払いを考えなければいけないといった趣旨の内容でした。
あまりに短絡的で危険な記事だと思います。

平成6年にエキノコックス症発生で閉園した際の
キタキツネに対する反応を思い出します。
それまでマスコット扱いで可愛がり餌付けをし、
人の生活圏に招きいれておきながら「怖い」となると
手のひらを返すように悪者扱いになりました。
ましてオオハクチョウは昨年「単発的」に発生が確認されただけで、
オオハクチョウも被害者である可能性が高いのです。

タンチョウは過去に絶滅のふちから冬場の餌付けにより個体数を増やし
絶滅を回避した経過があります。
生息環境が悪化し続ける中で餌付けにより個体数が増え、
近年ではタンチョウによる農作物の被害も問題になり始めています。
タンチョウも「悪者」になる可能性を秘めています。
良くも悪くも人が深く係ることが問題の発生源であることを
自覚しなければいけないのではないでしょうか?

もっと言えば人の生活とはそういう一面を持っていることを知ることから
問題解決を考えないといけないのではないでしょうか?

オオハクチョウは悪者ではないのです。
一方的な愛情!?(ゲンチャン画伯)

2009年2月28日土曜日

流氷ひろば (平成21年2月)

さて,今は映画公開前の取材ラッシュです
(原稿を書いたのが1月18日なので…)。
対応に大わらわなのですが,旭川の先行上映,
そして全国上映と順調な船出を迎えられたらいいなと願っています。
それにしても今年の冬はつかみ所がありませんね。
そんなに寒いわけでもなく,
雪も全か無みたいな降り方をするし…

あざらし館念願の流氷作戦も新戦略をたてて挑んでいますが,

はたしてどうなりますか?
昨年はプールの一部を仕切り止水域として結氷できたのですが,
仕切をはずすと水温が高くなり,氷と水面の間に空気層ができてしまい
今ひとつ臨場感に欠けてしまいました。
今シーズンは循環ろ過の宿命である
高水温をいかに下げるかに挑んでいます。
ちょっとマニアックな話になるのですが,
あざらし館のプールの水は,循環ろ過をして透明度を保っています。
アザラシは水中で糞を大量にするので,
ろ過能力はぺんぎん館などよりも高能力です。
プールの水約250トンを一時間でろ過する能力があります。
ちょっと乱暴な言い方ですが一日に24回
水を入れ替えていることになります。

さて問題はろ過器のある機械室は

プラス5度以上に保たなければいけません。
さらに来園者のはいる館内は十数度になるようにしています。
つまり保温している状態なのです。
あざらし館のろ過はちょっと特殊で,
透明度を維持する物理ろ過槽の他に,
巨大な生物ろ過槽があります。
これは透明度を維持するためではなく,
水質を魚がすめるようにするためのものです。
水質の検査を継続する中で,
この生物ろ過はそれほど有効に働いていないことが分かっていたので,
このろ過槽のろ剤を入れ替えて物理ろ過槽にしました。
そしてろ過流量を下げて,
プールの水がより長く外気温にさらされるようにしました。

さらに夜間ろ過を止める試みも始めました。

オープン以来24時間ろ過は稼働していました。
来園者が不快に思うくらいに水が濁るのが怖くて
ろ過を止める試みはしていませんでした。
そこで正月の閉園期間中に夕方からろ過を止める実験をしました。
朝,ろ過を始めると開園の時間までには水の濁りは許容範囲まで
回復することが確かめられました。
現在まで(1月18日)この方法を継続することで,
最低気温が下がらない中で,
水温は徐々に下がり3度台まで下がって来ています。
躯体(くたい)のコンクリートも冷えてきたようです。
ここで一気に大量の雪を投入して表面が凍れば
流氷作戦に明かりが差し込みます。
明日,第一弾の雪大量投入作戦を決行します。
担当者も頑張っています。
どんな結果になるか楽しみです。
この手紙が届く頃には
もしかしたら水中から流氷の底を見上げる景色が…
そんなに甘くはないかな…
 

(無事に流氷広場が完成しました。
    あざらし館のコンセプト「流氷と共に生きるアザラシ」が実現できました!)
流氷ひろばのゴマフアザラシ(ゲンチャン画伯)