2015年3月18日水曜日

雄も雌も、子育てを学ぶ機会が必要です (平成27年3月)

原稿を書いている今は2月半ばの厳冬期、なはずなのに
じわじわと雪解けが進んでいます。
山の南斜面は土が見えている!どうしてしまったのでしょう。
このままだとペンギンの散歩が3月の早い時期に終了になるのではと、
あり得ないとは思うのですが、もしかしたらと心配になります。

オランウータンのリアンが第3子を出産しました。
7年ぶりの出産です。
子供から目を離しても心配なくなるまで排卵が止まるオランウータンなのですが、
それにしてもちょっと間が長かったのですが、無事出産しました。
モリト(7歳)が母親にべったりでリアンもなかなか子離れができずに
ジャックとの同居の苦労などいろいろありました。

飼育下では、本来ならばまだ母親と過ごしている3歳前後で
他の動物園に引っ越し新たな生活を始めることが一般的でした。

その理由は、新たな環境になじみやすい(飼育しやすい)、
2次性徴が始まってからだとペアの形成が難しい、
特に雌雄で体格差が大きいので事故の可能性がある(飼育が難しい)、
そして何より小さい方が可愛らしい(報道発表で受けがいい)…
よく考えると皆人間側の理由でした。

その結果、母親と過ごし、弟妹の誕生に立ち会い、子育てを共有し、独り立ちする
本来の成長過程を踏まないままに大人になるオランウータンが多くなりました。
雌雄で飼育しているのに繁殖しないペアーが多くなりました。
繁殖しても育児放棄し人工保育になってしまう場合も多くあります。
大人になると単独で生活するオランウータンの場合、
出産や子育ての学習の機会は
母親と過ごしている間の一回の出産に立ち会う時しかありません。

リアンの場合も6歳で当園に来たのですが弟妹ができる前でした。
リアン第1子出産の時は生みっぱなしで触ることもできませんでした。
介添保育を行い母親になりました。
第2子モリトの時はすぐに抱っこしたのですが、
胎盤の処理(食べてしまう)ができずに、へその緒の処置は僕たちで行いました。

メスの子の場合は、母親と過ごす時間はとても大切だと改めて思います。
ではオスの子は?
飼育下では交尾ができない、メスに対して乱暴といった問題が多くあります。

やはりオスの子も出産育児を共有することが大切なのではないか?
やんちゃでリアンももてあまし気味なので心配もあったのですが、
今回の出産はモリトも同居のまま行いました。

今回は完全に処理するまでではなかったのですが、胎盤も食べました。
しかもモリトも一緒にです。
母子2頭、口の周りが真っ赤でした。
そして母親が抱く子をそばでじっと見つめています。
そっと手を出すのですがリアンに怒られます…。
モリトはきっと立派なオスになる。
そう確信できました。

2015年2月17日火曜日

アムールトラのキリルとザリア (平成27年2月)

さてさて全く冷え込まない日々が続いています。
例年ならばあざらし館のプールの凍らせ作戦や、
雪あかりの動物園のための風船、
アイスキャンドル作りを始めていなければいけないのですが…
週間天気予報とのにらめっこが続いています。
雪も少ないし。
まぁ愚痴っていてもしかたがないのですが、
天候に逆らおうなんて考えてもしかたのないことです。
時を待つしかないのです。
っていいながらこの号がでる頃にはどうなっているのかとふと心配になります。

先日ネットでニュースを見ていたら、「沖縄でフラミンゴ」の記事が出ていました。
「もしかして!」「生きていたのか(^O^)」「沖縄で捕獲作戦か!」
「作戦はできている!」「沖縄なら楽しいかも(^O^)」等同時に複数の考えが頭を巡りました。
やはり未だに気になっている自分に気づかされました。

しかし冷静に写真を見ると、
羽根のこげ茶の模様、体型などから1~3歳くらいの亜成鳥であると思われ、
旭山のフラミンゴではないと判断できてしまいました。
どこから来たのか不明、とありましたが、
野生個体の亜成鳥が一羽でということは迷鳥としても考えにくく、
飼育下の個体と考えられます。
フラミンゴは個人でも飼育することが可能ですし、
昔は遊園地などでも飼育されていました。
沖縄でなければ近隣の国の飼育個体ということも十分に考えられます。

昨年9月にアメリカの動物園から来園したアムールトラ、
たくさんの方からお披露目はまだか?の問い合わせをいただいていました。
オスは5歳メスは4歳でもうすっかり成獣で、別々の動物園で生まれ飼育されてきました。
本来であればもっと早くにペアーを組んでいていい歳です。
個体情報から日本での一般的なトラの飼育方法とは
大分違う環境で育ってきたことがうかがえました。
朝寝室から放飼場、夕方放飼場から寝室というルールで飼育していないようでした。
成獣になってからの環境の変化、特に飼育の仕方の大きな変化への順化は時間がかかります。

というわけで、寝室から別の寝室への移動から始まり、
個体にストレスをかけないように徐々に旭山の飼育環境に慣れるように
じっくりと時間をかけました。
オスのキリルは後は放飼場に出すまでになっていたのですが、
「たくさんのお客さんを見ると興奮してパニックになる」という理解に苦しむ情報がありました。

そこで休園期間の正月に放飼場に出してみました。
複数の職員で見守っていたのですが、
当初は檻越しにアタックをしてきたのですがすぐに収まり
となりのライオンにも目を合わせるだけで興奮する様子もありませんでした。
一月の初旬からキリルの放飼、展示を始めました。
メスは?なかなか寝室でリラックスしてくれません。
もう少し時間が必要です。

2015年1月18日日曜日

キングペンギンのひなは散歩に出るか? (平成27年1月)

さてさて皆様は新年をどのように迎えられたでしょうか?
動物的に365分の1日に過ぎないのだと思う一方で、
やはりヒトとしての性で何か特別な通過点であり、
改めての振り返りと新たな前進のスタートの日でありますね。

昨年はマリモの死、旭子の入園、オオカミ、タンチョウ、レッサーパンダなど
たくさんの命の誕生、アムールトラの入園…たくさんの命との出会い、お別れがありました。
今年はいよいよヨーロッパからイボイノシシ、ロシアからアムールヒョウの来園が決まり
手続きが進行しています。

施設のリニューアルは、こども牧場前のワシタカ舎をクジャク舎としてオープンすべく
改修工事を行っています。
新クジャク舎のオープンは新年度からとなります。
「クジャクは地面だけにいる鳥ではない」がテーマです。

さて冬と言えば、すっかり旭山の風物詩となったペンギンの散歩、
その主役はキングペンギンです。
今シーズン初めて茶色の雛が2羽成長しています。
野生であれば雛はクレイシという雛だけの集団を作り、
親鳥が海から捕ってきた餌を運んでくるのを待つのですが、
動物園では親鳥と一緒に散歩に出かけるようになったりします。

さてこの2羽はどうなのでしょうか?
今までは散歩に出かけたはいいけど途中で嫌になり歩かなくなり、
そのたびに雛だけを抱えてぺんぎん館まで持ち帰ったりとけっこう手を焼かせてきました。
2羽同時に散歩に出て歩かなくなったらどうしようかと今から頭を悩ませています。

実はこの雛の一羽は、雄同士ペアーに育てられています。
旭山のキングペンギンはもともとメスが少ないこともありますが、
食べ物と安全が保証され「ゆとり」がある環境が大きく影響して、
ある特定の雄がモテる傾向があります。
一羽の雄が2羽のメスと交尾し産卵します。
どちらか一羽のメスが単独で抱卵することになります。
でも抱卵や育雛は2羽で交代しなければできません。

そこで雄同士ペアーに卵を預ける作戦にしました。
ペアーを組めなかった雄は擬似的に雄同士でペアーを組むものが現れます。
争いを避ける仕組みがあるのだと思われますが、
お互い相手をメスだと思い込むことでペアーになる…
彼らの心境を考えるとちょっと心が痛いですね。

そのペアーに擬卵を与えると、アレッ!?お互いに相手がほんとにメスだった、
ということになります。
さらに複雑な心境に…。
孵卵器に入れておいた本物の卵が嘴打ちをした段階で擬卵とすり替え、親元で雛が孵ります。
今年はこうして順調に雛が育っています。
暖かく見守っていただければと思います。