2008年4月29日火曜日

鳥インフルエンザpartⅡ (平成20年4月番外編)

十和田湖のオオハクチョウ3羽の死体と衰弱個体(後日死亡)の内3羽から
高病原性鳥インフルエンザが見つかりました。
オオハクチョウは渡り鳥です。
冬になると越冬のために日本に渡ってきて、
春になるとユーラシア大陸の高緯度地方に戻り繁殖をします。
十和田湖のオオハクチョウは北海道を経由して繁殖地に渡っていきます。
東北地方や北海道ではもうしばらく警戒が必要です。

高病原性鳥インフルエンザについては

発生すると養鶏農家などの経済的な被害も莫大ですが、
このインフルエンザウイルスが
ヒトからヒトに感染するウイルスに変異する可能性が高いことが指摘されており
このことがもっとも恐れられています。
(ゲンちゃん日記:平成16年5月鳥インフルエンザ参照)

オオハクチョウから高病原性鳥インフルエンザが検出されたことを受けて、

環境省は「弱った野鳥にむやみに近づいたり素手で触ったりしないように」
と呼びかけています。
僕はもっと根本的なことで、ヒトとの接点を作る「エサやりはしないように」を
啓発するべきだと思います。
エサやりは野生動物の生活に干渉することです。

実際ハクチョウ類のパンやりなどの餌付けは、

本来ならば羽を休めるだけの場所で越冬する個体が出たり、
そのことでハクチョウ類の糞で湖が汚染されてしまったりと
様々な影響が指摘されはじめています。

人にとって「可愛らしい」と感じられるから、
「自然を、ハクチョウを愛している」といってエサを与える、
とてもわがままな行為につながっていると思います。

可愛くなくなったらどうなるのでしょう?

餌付けに依存してしまったハクチョウは
どうやって生きていけばいいのでしょう?
話が少々脱線しましたが、
高病原性鳥インフルエンザはニワトリ、アヒルなどの家禽との
濃密な接触をすることで人への感染が起きるのですから、
野鳥の場合、本来の関係であれば
家禽とのような濃密な接点は生じ得ないわけで、
要は「不自然な関わり方はしないように」
ということではないでしょうか。

愛すればこそ干渉をしない、野生動物との共生のキーワードです。

餌付けハクチョウ(ゲンちゃん画伯)

2008年4月26日土曜日

平成20年度年頭に (平成20年4月)

超特急で平成19年度が終わり,新たな年度が始まりました。

僕は密かにゴマフアザラシが出産するのではないかと期待しているのですが,
どうなったでしょうか?
ホッキョクグマはめでたく発情,交尾をしたでしょうか?
(3月19日に原稿を書いているので…)

恒例の春の開園準備作業も,ずいぶんと期間が短くなりました。
今年は18日間しかありません。
旭山動物園は定休日がないので,
春と秋の休園期間が唯一の充電期間であり,
新たな取り組みの準備期間なのです。

それにしても今年は短い!
映画やドラマのロケなどの対応も盛りだくさんだし,
外の社会と隔離された自分たちのためだけの動物園に浸りながら,
さまざまなアイデアを考え,具体化し,動物たちの反応を確かめ,
夏期開園が始まってからの来園者の反応を想像しながら
額に汗しながらノコギリを引く。
そんな余裕がありません。
ちょっとピンチです。
自分たちが楽しく仕事をしなければ,
来園者も楽しく過ごせるはずもありません。

今年度は旭山動物園の新たな時代の幕開けです。
遊園地がすべてなくなり,「動物だけ」で勝負することになるからです。
遊具も大きな楽しみのひとつだった子供たちに,
動物を通してより大きな喜びを伝えることがどのようにすればできるのか?
ただでさえ大人の入園者の比率が高い旭山で(収入面ではいいのだけれど)
これ以上子供たちが来なくなっては大変です。
子供たちが動物ではなく,
大人のおしりしか見れないような現状の中で
工夫をしなければいけないと思っています。

今まであきらめていたことも,
本当にできないのか検証もしてみたいと思います。
例えば動物園での「写生会」。ここ数年は見なくなりました。
というか,できる状況ではなくなりました。
というか,来園者が許してくれなくなりました。
クラスまとまってのお弁当。これも場所がなくなり,
みんながバラバラで獣舎の陰や歩道の隅で食べたりしていました。
これに関しては,遊園地の跡地に巨大な芝生広場ができて,
夏期開園から利用できます。
できることなら,ある程度は場所取りも認めてあげられないか検討します。

走り続ける中で,たくさんの落とし物をしているのでしょう。
どこかで振り返り探さなければいけません。
今がその時期なのだと思います。
それにしても一週間7日は短すぎます。
せめて9日あれば走りながら落とし物も捜せるのですが…

愚痴りながらも,今年もしっかりと結果を残しますよ,期待して下さい。 

2008年3月31日月曜日

温暖化の中での生き残り戦術(平成20年3月)

久しぶりに寒い冬らしい冬だなと思っていたら,
2月の中旬に入りとたんに暖かくなってしまいました。
あざらし館スタッフが懸命に具体化した念願の流氷広場も

あっけなく溶けてしまいました。
なんか地軸の傾きがおかしくなったのかと思うくらい強い日差しです。
今年も結局雪解けは早そうな予感です。
オホーツク沿岸のゴマフアザラシたちは

無事に出産,子育てができるのでしょうか?
流氷は彼らのゆりかごです。
ほんの数週間早くなくなることで,

アザラシは命をつなぐことができなくなります。

今年は「温暖化」という文字を洞爺湖サミットもあることだし
イヤと言うくらい目にする年になるでしょう。
でも今よりももっと暖かい時代は過去にあったわけで

温暖化自体が問題なのではありません。
問題は温暖化のペースが異常に早いこと,

温暖化がおそらく人為的だということです。
動物は自らに与えられた環境の中で命を育みます。

自らが環境を変え臨機応変に生きるという生き方をしません。
数世代のうちに激変して環境そのものが変わってしまう中では

生きることができません。
変え続けることでここまで来た人類でさえ

農業などごく近い将来大変なことになるでしょう。

ただ,動物たちにもしたたかさはあります。
ホッキョクグマはすでに温暖化の影響を強く受けています。
近い将来,もしかしたら僕が生きているうちに絶滅するかも知れません。
そんな中でハイブリッド個体いわゆる雑種が確認されています。
ホッキョクグマとヒグマの雑種です。

数年前ヨーロッパの動物園に
茶ブチのホッキョクグマがいるらしいとの情報は知っていたのですが…
まさか野生下でしかもごく希ではなくいるらしいのです。
温暖化は,極地よりも少し暖かい環境に棲むヒグマにとっては
生息地が極地方面に拡大することを意味します。

本来ならば生活の仕方が全く異なり

棲み分けていた彼らに接点ができたのです。
ホッキョクグマとヒグマは

わずか20万年程前に種として分かれたとても近い親類関係です。
ハイブリッド個体は

両種の特徴を持ち合わせる新たな可能性を持った個体です。
ホッキョクグマは自分がホッキョクグマという種だと自覚し

生きているわけではありません。
激変する環境の中で命をつないでいるだけです。

雑種化は,純粋なホッキョクグマを

驚く程の早さで絶滅させる可能性があります。
きっと純粋なホッキョクグマを保全しなければといった

人間の価値基準での議論がなされるでしょう。
復元不可能な環境破壊をして

種を存続させることはコレクションでしかありません。 

そんな中,イワンが繁殖可能年齢になります。
2世誕生に期待がかかります。
ただのコレクションにしてはいけません。
ホッキョクグマ?それともヒグマ??(ゲンちゃん画伯)